活躍する中小企業診断士インタビュー vol.02

モノづくりの技術者からベンチャーキャピタルでのお仕事を経験し、昨年30代で独立した酒井 勇貴さん。診断士を取得したきっかけ、独立までの経緯、コンサルタントとしての心構えなどを伺いました。 (インタビュアー:KIYOラーニング代表 綾部貴淑)

クリエイティブパーソンズ代表
酒井 勇貴さん



酒井 勇貴 Sakai Yuki

クリエイティブパーソンズ代表。中小企業診断士/経営学修士。産業資材メーカーで新製品・生産技術開発に携わった後、独立系ベンチャーキャピタルグループにて投資支援先の新規事業立ち上げを行う。

現在は、中小・ベンチャー企業の新規事業企画・Webマーケティング戦略立案を中心としたハンズオン支援のほか、売上アップやマネジメントの原理原則をわかりやすく解説した経営セミナーなども行っている。

●資格
中小企業診断士

●主な著書
『社長はデータをこう活かせ!』

診断士を取ろうと思ったきっかけ


――現在は中小企業診断士として活躍されていらっしゃますが、診断士を目指されたきっかけはありますか?


酒井:元々は、新卒で技術者として4年くらいメーカーで研究者をやっていていたのですが、技術者としてではなく、ゼロから新しい技術とか商品・サービスを開発するようなベンチャーを支援する仕事の方が日本のモノづくりに貢献できるのではないかと考え、ベンチャーキャピタルに転職しました。

 転職は成功したんですが、経営のケの字も知らずにはいったので、入社間もなくして、社長から「中小企業診断士の1次試験だけでもいいから取れ」と言われたんです。さらに「1週間後にテストやるから、勉強してこいと言われて、一週間後に社内で、中小企業診断士の1次試験を全科目受けさせられました。



――なるほど。これは1週間で7科目を勉強して全部受けたんですか?


酒井:1週間で全部やりました。試験時間も実際の6割位で1日で全科目受けたんです。ほとんどいじめですよね(笑)
 で、財務・会計だけは6割を超えたんですけど、他はズタボロだったんですね。それで、社長にお前は全然勉強が足りない、そんなんじゃベンチャー支援なんかできるわけがないと叱られたわけです。それが悔しかったのと、内容として、これはベンチャー支援を行う上で、全部知っていないといけないものだとも思いました。そういったことがきっかけとなって、1次試験の勉強を始めました。


独立したきっかけ

――新規事業を立ち上げて実績を作って、その後のステップはどのようなものでしたか?


酒井:その後、色々あって、会社自体の経営が危うくなった時期が来たんです。社員30名程度の規模が社員5名くらいにまで縮小するということが目の前で起こりました。診断士資格も取得した、新規事業の立ち上げも経験した、会社もこんなことになってきた、という状況の中で、今後自分が何をしていきたいのかを改めて考えたんです。


 そして、最終的に、新しい商品・サービスを作りあげていくという世の中に対して非常にインパクトのある取組をお手伝いしていきたいという思いに至り、会社を辞めて独立するという選択をしました。


――他のベンチャーキャピタルへの転職ではなく、独立を選ばれた理由はなにかありますか?


酒井:組織に所属することで受けられるメリットは確かにあると思います。一人ではできない大きな仕事だったりとか、チームを組んで仕事をするとか。ただ一方で、やはりデメリットもある。組織変更や人事異動などで、自分がやりたいと思っていても、仕事にピリオドを打たなければいけない瞬間がある。そう考えると自分がやりたいと思ったことが転職した先で確実にできるという保証はない。

 そこで、自分にはまだ若さもあるし、自分が本当にやりたいことをやるには、自分でやるしかないんだという思いで、独立を選びました。


――自分がやりたいことをやるためのベストな選択が独立だったということですね。


酒井:そうはいっても、独立の準備なんか全然してなかったんですけど(笑) 。そんな状態で、2013年の8月に独立しました。


――独立には大きな不安も伴うものだと思いますけど、診断士資格を持っていることでプラスになった部分はありますか?


酒井:資格自体というよりも、資格を取るまでの過程やMBAコースなどで、尊敬できる独立診断士の方々と知り合う機会があって、その活動のイメージなんかを持っていたのが大きかったですね。具体的に独立されていた方の事例などを目にしていたということで勇気づけられました。

独立後のお仕事


――独立の準備をあまりしていなかったということなんですが、最初の段階でお金を実際に稼いでいくという部分はどのようにクリアされたんですか?


酒井:そこはありがたいことに、新規事業の立ち上げをやっていた時に、一緒に手を組んでた別のベンチャー企業の方に、いいタイミングでお仕事をいただけたんです。その方とはこんな新規事業をやってみたいですね、なんて話を元々していたんですね。自分のやりたいことを包み隠さず話していたのが、独立の最初の仕事のきっかけになったという感じでした。


――最初のお仕事は具体的にどんなことをやっていたんですか?


酒井:あるITベンチャーの新規事業立ち上げです。その企業はBtoBをメインにやっている会社なんですけど、BtoCへの進出などを支援をしました。これは今も継続しています。


――最初のお仕事で苦労された点はありますか?


酒井:その会社の社長さんとは考え方に近い部分もあり、そこでは苦労はしなかったんですが、ほとんどの社員がBtoBのお仕事をしてきたエンジニアで、BtoCのビジネス感覚やノウハウを持っている人は少ないんですね。そのため、最初から現在に至るまで、「ハンズオン支援」という形で、経営側のアドバイスだけでなく、実際に手をうごかす実行部隊としてのお手伝いもしています。

 実行部隊としてのお手伝いもありますので、作業時間をとられる大変さはあるんですけど、確固たる仕事の基盤を作るという意味では最初にこういった仕事ができたのは大きかったと思います。


――今度もそういった支援をやってきたいという思いをお持ちですか?


酒井:そうですね。自分の軸としては、このスタンスを続けていきたいと考えていますが、どうしても多くの支援を行える形ではないので、他の形での支援も増やしていきたいなと思っています。


――新規事業立ち上げ以外でされているお仕事などはありますか?


酒井: 自分が公的機関の仕事をするなんて想像もしていなかったんですけど、色々な縁があって、葛飾区の経営相談員をやっています。また、中小企業診断士が集まったコンサルティングファーム「コンサラート」にも所属して、そこで個人では受けられない「学生起業家選手権」のようなお仕事などをやっています。仕事のポートフォリオは広がっている感じですね。


株式会社コンサラート
中小企業診断士を中心に構成された経営コンサルティングのプロ集団。経営に関する幅広い課題をワンストップで解決している。 http://consulart.jp/




――お仕事の柱としては、「新規事業の立ち上げ」「公的機関でのお仕事」「コンサルファームでのお仕事」ということで、非常にバランスが取れている感じですね。



酒井:そうですね。新規事業の立ち上げのお仕事を軸にして、3か月から4カ月でポートフォリオが充実していったんですけど、きっかけのひとつは、コンサラートに大学の恩師がいたことですね。独立することになった際に、真っ先に声を掛けてもらえました。
 自分がやりたいと思っていることをどんどん周りに伝えられたのが、早い段階での仕事のポートフォリオ形成に寄与したのではないかと思います。


――やりたいことがあっても、実績がなかったりすると口に出すことに躊躇してしまう部分があると思いますが、やりたいことを周りに素直に伝えたというのが大きかったということですね。


酒井:そうですね。あと心掛けていたのは、サービス精神をどう表に出していくかということです。なにか話があったときに、こういうのがやだとか、それは出来ませんとか簡単に言うのではなく、周りの人たちに何か喜んでもらえるものがないのかと常に考えて接してきた結果、なぜか多くの人が私のことを気に留めてくださっていた。そのサービス精神が今につながっているのではないかと思っています。


――今後のお仕事としてこういうことをやっていきたいなどはありますか?

酒井:仕事をしていくなかで、仕事などに対する考え方が近いコンサルタントの人たちとの出会いがあったんですね。そんな仲間と自分たちの独自のサービスを提供することを考えて準備をしているところです。まだ具体的にはお話できなうのですが、年齢や経験もバラバラな仲間が集まって、非常に面白い取り組みができると思っています。

独立して良かった点、悪かった点


――独立して色々な方面で活躍していらっしゃいますが、実際に独立してみてよかった点などはありますか?


酒井:自分がこんな風にしたら、相手に喜んでもらえるかなというようなことをストレートに実行できるようになりました。会社に所属して仕事していると、会社の方針や上司と意見が合わないと、疑問を持ちながら提案を変えるということがあると思うんです。独立してからは自分が一番いいと思えるものをストレートに表現できて、それを相手に喜んでもらえるというのが、よかったなと思える部分ですね。


――では、逆に独立してみて悪かった点などはありますか?


酒井:必ずしも悪かった点という訳ではないですが、大きく変わった点としては、完全に仕事中心の生活になりました。もちろん能力ややり方次第でワークライフバランスをうまくとるということもできると思いますが、独立するとどうしても仕事中心の生活にはなってしまうと思います。


――仕事中心になって、ご家族との関係で変わった部分はありますか?


酒井:そもそも仕事中心の生活ってことに家族が理解を示してくれないと、診断士としての独立というのは成り立たないと思います。その部分は自分の家族は理解を示してくれているので、問題はありませんでした。独立を具体的に進める際には、独立後の生活を具体的にイメージしてもらえるように家族ときちんと話をしておくというのは重要じゃないかと思います。


酒井さんの考えるコンサルタント像


――酒井さんが目指すコンサルタントとしてのあり方とはどんなものでしょうか?


酒井:私個人としては、「診断と助言」で表現されるような一歩離れたスタンスではなく、お客さんと一緒にサービスや商品を作り上げて行きたいと考えているんです。また、どういう単価の仕事であれ、仕事が有償であれ、無償であれ、依頼してくれた方が考えていた以上に仕事をしてもらったと思ってもらえるような存在でありたいとも思っています。ですから報酬には関係なく、常に期待以上の仕事をする、それも義務感ではなくサービス精神として出していきたい。

 どうしてもコンサルタントのお仕事という話になるとコンサルティングスキルにフォーカスがあたってしまうと思うんですけど、「スキル」プラス「サービス」という感覚があるかないかが、独立した後の大きな差になっていくと思います。


――サービス精神が今のご活躍につながっているんですね。

酒井:独立して最初に提供できるのはサービス精神しかない。仕事が常に入ってくる人たちっていうのは、話をしやすいとか、断られるとしても何か次につながるような話になるとかそういうことだと思うんですよね。何かお土産を出せるのかどうかが重要で、自分も常にそうありたいと思っています。

独立に興味がある人、考えている人へのアドバイス


――最後にこれから独立を考えられている方へのアドバイスをお願いできますか?


酒井:もし独立という言葉が頭に浮かんでいるんだったら、もし独立をしなければあとで必ず後悔するので、独立するんだという覚悟を早く決めてほしいと思います。

 あとは独立する前に、独立後にまったく仕事がないという最悪の事態のことは考えておくこと。こういう話をするとすぐ貯金が生活費の3年分ないと独立できないとかいう話になると思うんですけど、私が独立したときには、貯金なんてまったくなかったです。私は子供が小さい状況で、かつ貯金もなく独立しましたのでよくクレイジーだと言われました(笑)


――そのあたりはどのようにお考えだったんですか?


酒井:最初の仕事がすぐにはいったので、そんな状況にはならなかったんですけど、もし仕事がなかったら、夜バイトして、昼は診断士としての活動するという覚悟は持っていました。独立して仕事が何もないとなったときに生活レベルを下げてでも続けられられるか、その状態がいつまで続いたら独立生活にピリオドをうつのか、ということも考えましたね。


――独立するタイミングはどう考えるべきでしょうか?


酒井:独立したいなと思ったときに思い切って独立すべきなんじゃないかと思います。独立するような仕事のきっかけがあったりとか、気力体力が充実しているタイミングとか、そういうきっかけでいいと思います。若いということ自体が武器にもなりますし、独立することで入ってくる仕事というのもあるものですしね。

 また、診断士を目指している人の中には、独立を目標としない人も大勢いると思いますが、きっかけやタイミングで考えは変わるものです。ですので、独立するしないにかかわらず、資格取得後に、今自分のいる環境の中で診断士としての知識を活かす実践の場を持つようにはして欲しいですね。資格を取っただけで、周りから何かアクションがあるということはないので、自分から学んだことを活かすような生産的活動を行って欲しいです。そうすることで今までとは違った何らかの道が切り開けるものだと思います。