ISバランスアプローチ(貯蓄投資バランス)- 中小企業診断士 経済学・経済政策 平成30年 第6問

ピックアップ過去問解説

問題

マクロ経済循環では貯蓄と投資の均衡が恒等的に成り立つことが知られており、これは「貯蓄投資バランス」と呼ばれている。貯蓄投資バランスに関する記述として、最も適切なものはどれか。


ア 経常収支が黒字で財政収支が均衡しているとき、民間部門は貯蓄超過である。

イ 経常収支の黒字を民間部門の貯蓄超過が上回るとき、財政収支は黒字である。

ウ 国内生産よりも国内需要が少ないとき、経常収支は赤字である。

エ 国内の純貯蓄がプラスであるとき、海外の純資産は減少している。


解答・解説

解答:ア

 貯蓄投資バランス(ISバランス)の問題です。グラフの問題ではないため、以下の式をしっかり理解していることが求められます。

 X = (S - I) + (T - G) ⇒ 純輸出 = 貯蓄超過 + 財政黒字
 ここで、Xは純輸出、Sは貯蓄、Iは投資、Tは税金、Gは政府支出です。

 貯蓄Sから投資Iを引いたものが正の値の場合を「貯蓄超過」、税金Tから政府支出Gを引いたものが正の値の場合を「財政黒字」と呼んでいます。
 純輸出Xは、民間の貯蓄超過と、政府の財政黒字を足したものです。純輸出Xが黒字であるとは貿易収支が黒字ということです。ISバランスでは、経常収支における大きな要素である貿易収支の黒字は経常収支が黒字であると考えます。そして、経常収支の黒字は貯蓄超過、または財政黒字によってもたらされると考えます。

 日本は大規模な財政赤字を抱えていますが、一時期を除き経常黒字基調です。これは、貿易収支が黒字であることが原因ではありますが、同時に、貯蓄超過額が財政赤字額を上回っているため、と考えることもできます。一方で、貿易相手国である米国は純貯蓄が不足しているため、財政赤字が経常赤字に結び付いているとも考えることができます。
 経常収支(黒字) = 純貯蓄 + 財政収支(ゼロ)は、純貯蓄が黒字のときに成り立ちます。選択肢アは経常収支が黒字で財政収支均衡しているとき、民間部門は貯蓄超過であるとしており、記述は適切です。よって、選択肢アが正解の選択肢です。
 ISバランスは、財政収支=経常収支-純貯蓄、と変形することができます。選択肢イでは経常収支の黒字を民間部門の貯蓄超過が上回るとき、つまり、上記式の右辺において純貯蓄が経常黒字を上回るときなので、財政収支は赤字となります。よって、選択肢イの記述は不適切です。
 選択肢ウは直接ISバランス式からではなく、輸出入と国際的な財市場の需給を考えて判断しましょう。輸出は国内の生産が国内の需要を上回るため輸出されます。輸入は反対に国内の生産が国内の需要を下回るために輸入されます。従って、国内生産よりも国内需要が少ないときは、輸出超過となるため経常収支は赤字ではなく、黒字となります。よって、選択肢ウは不適切です。
 選択肢エですがISバランスは国内の純貯蓄、財政収支、経常収支の関係を説明するもので、国内の純貯蓄と海外の純資産との関係を説明するものではありません。本問は投資貯蓄バランスに関する記述として適切なものを問うているので不適切な選択肢となります。

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