国民経済計算の概念として、最も適切なものはどれか。
ア 国内総生産は、各生産段階で生み出される産出額の経済全体における総額である。
イ 中間投入には、減価償却費や人件費を含まない。
ウ 名目国内総生産は、実質国内総生産を GDP デフレーターで除したものに等しい。
エ 名目国内総生産は、名目国民総所得に海外からの所得の純受取を加算したものに等しい。
解答:イ
国民経済計算に関する問題です。中間投入についての判断はやや難しいものですが、消去法によって正解を特定できると思います。
では、GDPから確認しておきましょう。GDP(Gross Domestic Product)は国内総生産と呼ばれます。GDPは、ある期間で国全体でどれだけ財・サービスが生み出されたかを表す指標です。GDPを定義すると、「ある一定期間で、国全体で新たに生み出された付加価値の総額」となります。
簡単に言えば、GDPは国の産業全体で生み出された付加価値を足し合わせたものです。付加価値は、各企業が材料に付け加えた価値を表します。付加価値は、最終的な生産額から、原材料などの中間投入額を引いた金額です。
付加価値にする理由は、材料メーカーや製品メーカー、小売業などの生産額を全て合計した場合、企業間の仕入の分が重複してしまうからです。これは、GDPの図を見てください。
この図では、農家がりんごを生産し、メーカーがりんごジュースを生産して、小売業者が販売するという経済活動を表しています。
農家は300万円分のりんごを生産しています。農家では、仕入がないとすれば、生産した300万円は全て付加価値となります。
メーカーは、300万円分のりんごを農家から仕入れて、りんごジュースを生産します。その結果700万円分のりんごジュースが出来ました。このメーカーの付加価値は、生産額の700万円から、中間投入額300万円を引いた400万円になります。
小売業者は、メーカーから700万円分のりんごジュースを仕入れて、店頭で販売した結果1,000万円の売上となりました。よって、小売業者の付加価値は、販売額の1,000万円から、中間投入額700万円を引いた300万円になります。
ここで、この経済のGDPを求めてみましょう。GDPは、付加価値の総額ですので、農家の300万円、メーカーの400万円、小売業者の300万円を足した、1,000万円となります。つまり、この経済で新たに生み出した価値が1,000万円ということです。ちなみに、これは、最後の小売業者での販売額と等しくなっています。
また、付加価値には、人件費や政府に納める税金も含まれていることに注意しましょう。これらは、会計上は費用ですが、生産額からは控除せずに付加価値に含めます。これは、生産によって新たに生み出された付加価値は一旦GDPに集計され、後で労働者や政府に人件費や税金として分配されると考えるためです。
それでは、本問を見ていきましょう。
選択肢アですが、GDPは国内で一定期間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額です。産出額の総額ではありません。なお、付加価値とは生産された財の価値から、投入された中間生産物の価値を引いて算出されます。したがって、不適切な記述です。
選択肢イですが、生産面のGDP=産出額-中間投入です。中間投入は生産者による財貨、サービスの生産の過程で、原材料・光熱費・間接費などとして投入された財貨やサービスを指します。したがって、中間投入には機械設備や建物の固定資産の減価償却分や人件費は含まれませんがGDPには含まれます。減価償却費は固定資本減耗に、人件費は雇用者報酬に含まれます。したがって、適切な記述です。
選択肢ウですが、GDPデフレータ-とは名目GDPから実質GDPを産出するために用いる物価指数です。GDPデフレータ-=名目GDP/実質GDP×100 であるため、実質GDP=名目GDP/GDPデフレータ-×100となります。したがって、実質国内総生産は、名目国内総生産をGDPデフレータ-で除したものであるため、不適切な記述です。
選択肢エですが、GDPと似ている指標に、GNP(Gross National Product:国民総生産)があります。
GNPは、「国民」という名前が表すように、国民が一定期間で生み出した付加価値の総額です。よって、日本のGNPであれば、日本国民の経済活動を集計したものになります。
GNPの場合は、日本に住んでいたとしても、外国人や外国企業の経済活動は集計範囲に含まれません。一方、外国に住んでいた場合でも、日本人や日本企業の経済活動は、日本のGNPに集計されます。
GNPとGDPの関係は、次のようになります。
GNP = GDP + 海外からの要素所得受取り- 海外への要素所得支払い
要素所得というのは、労働者や資産などの生産要素が生み出す所得のことです。日本であれば、「海外からの要素所得受取り」は、海外に住む日本人が生み出した付加価値を表します。「海外への要素所得支払い」は、日本に住む外国人が生み出した付加価値を表します。
以上より、名目国内総生産は、名目国民総生産から海外からの所得の純受取額を差し引いたものです。したがって、不適切な記述です。
中小企業診断士 1次2次合格コース
|
すべてのコースを見る |