ア A.マズローの欲求段階説における自己実現欲求は、外発的に動機づけられるものではなく、自分自身の理想を追い求め続けることを通じた内発的な動機づけとも考えられる。
イ E.メイヨーとF.レスリスバーガーのホーソン実験では、従業員が自分たちの作業条件を決定することによって内発的に動機づけられていたことを発見し、これをホーソン効果と呼んだ。
ウ M.チクセントミハイは、特定の作業に没頭する中で、自身や環境を完全に支配できているという感覚が生まれることをフロー経験と呼び、そうした経験は他者からのフィードバックも必要とせず、給与などの報酬とも無関係であるとした。
エ R.W.ホワイトが提唱するコンピテンス(有能性)概念では、環境と相互作用する有機体の能力自体が、「うまくいった」という内発的な動機づけの源泉となる。
オ 内発的動機づけを概念として広く知らしめたE.デシは、報酬のためにやらされているのではなく、自分の好きにやっているという自己決定が重要であるとした。
解答:イ
ウ、エ、オの理論については初めて目にする理論かもしれませんが、イが不適切であることは比較的容易に判断できるのではないでしょうか。
まず、外発的動機づけと内発的動機づけについておさえておきましょう。外発的動機づけは強制や懲罰、評価、報酬などが要因となります。内発的動機づけは、例えば業務等に対する興味や関心から意欲がわいて業務遂行等からの達成感や満足感、充実感を得たいという欲求が要因となります。内発的動機づけは外発的動機づけよりも自発的な行動につながりやすく、かつ、持続的です。
選択肢アはマズローの欲求段階説の記述です。「自分自身の理想を追い求め続ける」は自己実現という5段階の最も高い動機づけが得られるまで不可逆的に動機づけられるという欲求段階説に整合した記述なので適切です。
選択肢イは、ホーソン実験についてです。ホーソン実験の成果は、生産に影響を与える要因は作業条件ではなく、非公式な人間関係が重要だということがわかったことです。自分たちで作業条件を決定することにより内発的に動機づけられたのではありませんので不適切な記述です。
よって、これが正解です。
選択肢ウのチクセントミハイの理論について復習しましょう。チクセントミハイのフロー心理学では「人が極度に集中している、没頭している状態」を「フロー状態」といいます。フロー状態において人は充実感を得る事ができ、モチベーションが続きます。特定の作業に没頭する中で、自分自身や環境を完全に支配できている感覚を「フロー経験」と呼びます。従って、他者からのフィードバックは不要で、報酬とも無関係に没頭できている状態ですから、記述は適切です。
選択肢エは、ホワイトのコンピテンス(有能性)概念です。コンピテンスとは環境に対する適応能力を指す概念で、「個人が経験・学習を通して獲得した能力をある状況下であれば有効に作用するだろうと考える潜在能力を持つこと」、「その状況下でその潜在能力を有効に活用することで自分の有能さを発揮しようと動機づけられること」の2つを統合した概念です。例えば、診断士試験に向けて重点的に勉強したところが数問出題されて「やった!うまくいった!」という感覚です。従って、記述に内容は適切です。
選択肢オは、デシの内発的動機理論です。デシは外発的動機づけに対し、内発的動機づけの考えを提唱しました。内発的動機づけとは、人は生まれながらに有能感と自己決定への欲求をもっており、この2つがモチベーションの重要な源泉となっているとするものです。有能感(competence)とは、自己がおかれている環境に効果的に対処できる能力をいい、自己決定(self-determination)とは、この能力にもとづき、自分の意思で行為を選択することをいいます。従って、記述は適切です。
組織論やマーケッティング論では、本問のように初めて目にするような理論が出題されることが多いのですが、目くらましであることも多いので、しっかりと学習した内容をおさえておきましょう。ただ、一度出題されれば、その理論はおさえておくべき理論になりますので、ここではしっかりとおさえてください。
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