ア 競争戦略の実行に不可欠な独自の経営資源を持ち、製品市場における規模の経済を実現できるのであれば、代替製品の脅威は事業の収益性に影響を与えず競争優位の源泉となる。
イ 経路依存性のある経営資源は、模倣を遅らせることで市場における競争者の脅威から先発者を保護する。
ウ 顧客からの強い支持をうける製品差別化は、競合他社との間の競争に勝ち抜く手段である以上に、他社との競争を可能な限り回避できる自社市場構築の手段となる。
エ 差別化した製品と標準的な製品の機能的な差が小さくなるほど、差別化した製品を選好する顧客の割合は低下するが、標準的な製品よりも高い価格を設定し、差別化した製品で高い収益性を確保しようとする場合、できるかぎり多くの顧客を対象とすると戦略上の矛盾を生み出す。
オ スイッチング・コストの発生する状況では、買い手側は、現在使用する製品やサービスと他の代替的な製品・サービスと価格や機能が同じであったとしても、別のものとして見なす。解答:ア
正解の選択肢はすぐに特定できる問題です。他の選択肢に惑わされないようにしましょう。
まず、競争戦略と言えばポーターの競争優位の戦略(3つの基本戦略)と5つの競争要因、持続的な競争優位といったらVRIOフレームワークを思い出せるようにしましょう。
選択肢アは、競争戦略実行に不可欠であり「独自」の経営資源を持っていることから差別化戦略、製品市場における規模の経済性を実現できるのでコスト・リーダーシップも展開可能です。いずれも市場全体を対象とする戦略の採用です。そこに代替製品の脅威がどのように影響するか考えてみましょう。代替品は、例えば携帯電話に対するスマートフォンのように携帯電話の市場に大きなインパクトを与えます。製品差別化は既存製品市場で有効な戦略ですが代替品に対しては有効ではありません。そのため携帯電話メーカーは機能面を最小限に絞り込み、価格を下げることで対抗しました。その結果、携帯電話メーカーの収益性は著しく低下しました。従って、「代替品の脅威が事業の収益性に影響を与えず競争優位の源泉となる」という記述が不適切です。
よって、これが正解です。
選択肢イは、経路依存性がある経営資源を持っている場合です。経路依存性は経験の積み重ねがないと蓄積できないという意味です。競合が真似することが難しい(時間がかかる)ため、持続的な競争優位につながります。模倣を遅らせることができれば先発者にとって優位になりますので、適切な記述です。
選択肢ウは、製品差別化のメリットです。自動車業界をイメージすると、メルセデスベンツやBMWは高級車としてゆるぎない地位を維持しています。価格帯で競合している両社ですので当然シェアの奪い合いが生じますが限定的です。なぜなら、基本的にメルセデスベンツは落ち着いた大人の高級車イメージ、BMWはスポーティでドライビング自体を楽しむイメージといったブランドとしての差別化がされており、高い顧客ロイヤルティを維持しているからです。従って、製品差別化は競争に勝ち抜く手段である以上に、他社との競争をできるだけ回避できる自社市場構築の手段ともなります。従って適切な記述です。
選択肢エは、イメージするのが難しいかもしれません。差別化した製品を選好する顧客の割合は減るのは、機能という差別化の一つの根拠が低下するのですから当然といえます。では企業が取るためにはどうするべきでしょうか。製品に対する忠誠度(ロイヤルティ)が高い顧客に絞り込んでいく差別化集中が採用されるべき手段となります。「差別化した製品でできるだけ多くの顧客を対象」とすると販売価格を低くして大量に販売しなければ売上が増加しません。すると忠誠度(ロイヤルティ)の高かった顧客は失望して離れていきます。標準的な製品と価格競争となって、収益性は低下していき、結果として高い収益性は確保することができません。つまり、戦略の整合性がとられていない矛盾した状態になってしまうのです。従って、適切な記述です。
選択肢オは、スイッチングコストです。例えば、電話機能しか使わない携帯電話ユーザーはスマートフォンの価格が下がってきて、差がなくなってもスマートフォンに切り替えないかもしれません。なぜかというと切り替えの手間が面倒であったり、操作を覚えるのが面倒であったり、かさばるからであったり、と理由は様々です。したがって、スイッチングコストが発生する状況では価格や機能が同じであったとしても、「別のもの」とみなすということが起きます。従って、適切な記述です。
競争戦略と持続的な競争優位は、事例で出題されることが多いので、普段から製品やブランド間の競争を注意して情報に触れるようにすることが重要です。
中小企業診断士 1次2次合格コース
|
すべてのコースを見る |