企業経営理論 平成22年 第9問 - 参入障壁と移動障壁

ピックアップ過去問解説

問題

 企業は新規参入を阻止して競争激化を抑制しようとするが、他方では業界内部の類似する戦略をとる企業の間で戦略グループが形成され、それが企業の自由な戦略行動を抑制するように作用し始める。前者は参入障壁であり、後者は移動障壁である。これらの障壁と戦略の関係に関する記述として、も不適切なものはどれか


ア ある技術に基づいて生産し販売される製品分野は、ライバル企業の間で製品の類似性が高くなるので、企業は顧客忠誠心やブランド力を高めてライバルとの差別化を図ることが重要になる。

イ 業界特有の販売チャネルや仕入れルートを同業者間で強化することは、他社の参入を防ぐには有効である。

ウ 業界内の競争を通じて形成された事業システムやマネジメント方式は、企業に戦略上の癖や慣性を生み出すので、企業が移動障壁に直面する事態にはならない。

エ 垂直統合や共同化は取引先への交渉力の強化や新たな技術の獲得には有効であるが、その縛りが強いと自社の戦略の成否が他社の戦略展開能力に影響されるようになる。

オ 同業者間に共通する戦略課題について協調を維持すると、やがて戦略の類似性が強まり、新規な戦略の展開が困難になる。



解答・解説

解答:ウ

企業経営理論から、参入障壁、移動障壁に関する問題です。

選択肢の記述を落ち着いて検討すれば、正解できる問題です。

最初に、参入障壁、移動障壁を復習しておきましょう。

参入障壁については、聞いたことのある方が多いと思います。ある業界に企業が新規参入しようとする際の障壁が参入障壁です。例えば、大規模な投資が必要であったり、既存の販売チャネルを既存企業に押さえられているような場合は、参入障壁が高くなります。

一方、移動障壁というのは、同じ業界内であっても、違う「戦略グループ」に移動する際の障壁です。

戦略グループは、同じ業界に存在する企業の中でも、同じような戦略を採用している企業群を表します。

例えば、衣料品業界であっても、低価格を強みとするディスカウントストアと、高級志向のブランドショップでは、採用している戦略が異なります。

よって、衣料品業界には複数の戦略グループがあると考えられます。

業界に参入するときに「参入障壁」があるように、戦略グループ間を移動するときには「移動障壁」が存在します。同じ業界であっても、ある戦略グループから別の戦略グループに移動するのは難しくなります。例えば、ディスカウントストアが、高級志向のブランドショップに転換するのはかなり困難です。

ここまでを押さえた上で、選択肢を見ていきましょう。


選択肢アは、「製品の類似性が高くなる」という記述から、同じ戦略グループに属する企業間の戦略と考えられます。

製品が類似している場合は、製品技術以外の要素、例えば、顧客忠誠心やブランド力を高めることで差別化を図ることが有効です。そのため、記述は適切です。


選択肢イは、業界の参入障壁に関する記述です。

業界特有の販売チャネルや仕入れルートを同業者間で強化すれば、新規参入する企業は、そのチャネルを容易に利用できず、参入障壁が高まります。そのため、記述は適切です。


選択肢ウは、移動障壁に関する記述です。

「業界内の競争を通じて形成された事業システムやマネジメント方式は、企業に戦略上の癖や慣性を生み出す」という記述があります。これは、簡単に言えば、「長年業界にいると、戦略に癖がつき、簡単に変えられなくなる」ということです。

そのため、記述は反対で、「移動障壁に直面する」(=戦略を変えにくい)ことになります。よって、これが正解です。


選択肢エは、垂直統合や共同化に関する記述です。

例えば、数社で共同仕入れなどの提携を行えば、仕入先への交渉力は増します。反面、その縛りが強いと、成果が提携先の他社に影響されるようになります。そのため記述は適切です。


選択肢オは、同業者間の戦略の類似性に関する記述です。

「同業者間に共通する戦略課題について協調を維持する」という記述は分かりにくいですが、「協調」という言葉から、お互いに協力しあったり、譲り合ったりすることで、共存共栄を図るような状況だと考えられます。

こういった状況になると「戦略の類似性が強まり」、ある1社だけ他の戦略を取る事が難しくなります。(これは、戦略グループが形成され、移動障壁が高まるとも説明できます)

そのため、記述は適切です。

今日の問題は、記述をしっかり検討すれば正解できる問題でした。



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企業経営理論

 1-3 事業戦略 - 参入障壁、移動障壁、戦略グループ

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