中小企業診断士 企業経営理論
令和元年 第4問-コア・コンピタンス

ピックアップ過去問解説

問題

 G.ハメルとC.K.プラハラードによるコア・コンピタンスに関する記述として、最も適切なものはどれか。


ア コア・コンピタンスは、企業内部で育成していくものであるため、コア・コンピタンスを構成するスキルや技術を使った製品やサービス間で競争が行われるものの、コア・コンピタンスの構成要素であるスキルや技術を獲得するプロセスで 企業間の競争が起きることはない。

イ コア・コンピタンスは、企業の未来を切り拓くものであり、所有するスキルや技術が現在の製品やサービスの競争力を支えていることに加えて、そのスキルや技術は将来の新製品や新サービスの開発につながるようなものであることが必要である。

ウ コア・コンピタンスは、顧客が認知する価値を高めるスキルや技術の集合体であるから、その価値をもたらす個々のスキルや技術を顧客も理解していることが必要である。

エ コア・コンピタンスは、他の競争優位の源泉となり得る生産設備や特許権のような会計用語上の「資産」ではないので、貸借対照表上に表れることはなく、コア・コンピタンスの価値が減少することもない。

オ コア・コンピタンスは、ユニークな競争能力であり、個々のスキルや技術を束ねたものであるから、束ねられたスキルや技術を独占的に所有していることに加えて、競合会社の模倣を避けるために個々のスキルや技術も独占的に所有していることが必要である。



解答・解説

解答:イ

 本問では、コア・コンピタンスについて問われています。やや読み取りづらい選択肢があるものの、正答率が相応に高いものと思われます。それでは、コア・コンピタンスについて確認しましょう。


 コア・コンピタンスとは、顧客に利益をもたらす一連のスキルや技術、競争優位を生み出す源泉であり、「他社が真似できない自社ならではの中核となる能力」のことです。これは、G.ハメルとC.K.プラハラードが、共著『コア・コンピタンス経営』において提唱した概念です。コア・コンピタンスに該当するためには、次の3つの条件が満たされる必要があります。

●顧客価値の向上

 顧客に価値を提供するのに役立つ

●独自の競争能力

 他社が真似しにくい

●新製品・サービスへの展開力

 様々な用途に広く展開できる


 では、選択肢を見ていきましょう。

 選択肢アでは、コア・コンピタンスは企業内部で育成していくものとしていますが、他社との共同開発事業や企業統合により獲得し、他社で育成されたスキルや技術から生じることもあるため、必ずしも、企業内部に限定されるものではありません。また、コア・コンピタンスとなるスキル、技術が獲得されるプロセスにおいて他社の研究開発などとの競争が生じ得ますので、企業内部で、育成し、熟成するケースばかりではないため、不適切な記述です。

 選択肢イは、コア・コンピタンスの「新製品・サービスへの展開力」についての記述です。具体的には現在の競争力の源泉は「顧客価値の向上」と「独自の競争能力」に支えられており、そのスキルや技術は将来の新製品や新サービスの開発につながるもの、つまり「新製品・サービスへの展開力」があるものです。従って、適切な記述です。

 選択肢ウは、前段の部分は「顧客価値の向上」として適切ですが、顧客がその価値をもたらす個々のスキルや技術を理解していることは求められません。例えば、外国車BMWのファンは、その製造技術に相応知識を持っている人もいますが、多くの消費者は、高級感やスポーティさ、わくわくする乗り心地に魅了されて購入しますので製造技術などへの知識は必ずしも必要とされません。従って、不適切な記述です。

 選択肢エですが、コア・コンピタンスは会計上用語上の「資産」とイコールではありません。しかし、コア・コンピタンスにより収益や純資産は増加しますし、特許権が切れるまでは、会計上特許権の認識はされますので必ずしも会計とは無関係ではありません。また、コア・コンピタンスは何らかの形で顧客価値を向上させる代替物が現れれば、価値が減少しますし、模倣されることで独自の競争能力はなくなります。そのようなコア・コンピタンスは価値の減少を招きます。従って、不適切な記述です。

 選択肢オですが、コア・コンピタンスにおけるスキルや技術は必ずしも明示的に存在するものばかりではありません。明示的なものであれば独占できるかもしれませんが、職人技のような伝承によって受け継がれる技術は、経営者すら知りえないものもあり、職人が他社に移ってしまえばなくなってしまいます。職人は人なので、転職することを阻むことは困難です。従って、独占することは困難であるため、不適切な記述となります。

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