保証に関する記述として、最も適切なものはどれか。なお、別段の意思表示はないものとする。
ア 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、保証契約に基づく支払義務はなくなる。
イ 売買契約の売主の債務不履行によって生じる損害賠償義務は、当該売主のための保証債務の担保する範囲に属する。
ウ 保証契約は、口頭でしても、その効力を生じる。
エ 連帯保証人が債権者から債務の履行を請求されたときは、連帯保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。解答:イ
経営法務から、民法(債権)の保証について問われています。保証の基本知識を押さえていれば、選択肢アと選択肢イの2つまでは絞れるでしょう。あとは保証の役割を考えて、より適切な選択肢を選択すれば対応が可能です。
まずは、保証について簡単におさらいをしておきましょう。
保証とは、主たる債務者がその債務を履行しないときに、保証人が代わってその履行をする責任を負うという制度です。場合によっては非常に重い責任を負うこととなるため、保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされています。
保証債務は主たる債務とは別の債務ですが、主たる債務との関係に基づく特徴がいくつかあります。
・付従性:主たる債務が存在しなければ保証債務は存在しません。主たる債務が成立して初めて保証債務が成立し、主たる債務が消滅すると保証債務も消滅します。
・随伴性:保証債務は主たる債務を保証するものですので、主たる債務の移転に伴って移転します。(債権譲渡により主たる債務の債権者が代われば、保証債務の債権者も代わります。)
・補充性:保証債務は主たる債務の不履行を前提とするものですので、保証人は債権者に対してまず主たる債務者に履行を請求すべきことを主張できます(催告の抗弁権)。また、主たる債務者に資力があり、執行が容易であることを証明すれば、保証人は債権者に対して主たる債務者に強制執行するよう主張できます(検索の抗弁権)。
以上を踏まえた上で、選択肢を順番に見ていきましょう。
選択肢アは、保証契約の消滅についての記述です。これについては保証の役割を考えると判断ができます。保証契約は主たる債務者が支払いをできなくなったときに、主債務者に代わってその支払いを行うものです。主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたというのは、まさに主たる債務者が支払いをできなくなった場面です。このような場合に保証契約に基づく支払義務がなくなるとすると、保証契約の意義がありません。したがって、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、保証契約に基づく支払義務はなくなりません。よって、選択肢アは不適切です。
なお、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、保証人は催告の抗弁権を主張できなくなると規定されています。このことからも、破産手続開始決定によって保証債務がなくならないことが分かります。
選択肢イは、保証債務の担保する範囲についての記述です。具体的に考えてみましょう。売買契約の売主の債務は、売買目的物の引渡しです。したがって、売主の債務不履行とは目的物の引渡しができなくなることです。このとき売主の保証人は何を保証しているでしょうか。売主に代わって売買目的物を引渡すことも考えられますが、むしろ債務不履行による損害賠償金の支払いを保証していると考えるのが通常でしょう。保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たるすべてのものを包含するものです。よって、選択肢イは適切です。
選択肢ウは、契約の要式性についての記述です。民法では原則として契約に際して契約書の作成のような特定の方式を要求しません。しかし、一定の法律行為については法律上一定の方式を要求しており、これを要式契約と言います。保証契約も要式契約の一つであり、書面でしなければその効力を生じません。よって、選択肢ウは不適切です。
選択肢エは、連帯保証についての記述です。連帯保証の特徴(通常の保証との違い)として、催告・検索の抗弁権がないことと、分別の利益がないことは基本知識ですので、この機会に確認をするようにしましょう。本肢の記載は催告の抗弁権に関するものですが、連帯保証であることから、このような請求はできません。よって、選択肢エは不適切です。
以上より、選択肢イが正解です。
本問では選択肢ウと選択肢エは基本的な知識で判断できますが、選択肢アと選択肢イは基本的な知識だけでは判断が難しいかもしれません。このような場合もなぜ保証という制度があるのかという原点に立ち返って、保証が機能する場面を想像することで対応が可能になります。
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