解答:1
1 妥当である。
不動産を時効取得しても、時効取得者は、登記をしなければ時効完成後に旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対抗することができません(最判昭33・8・28)が、その時効取得者である占有者がさらに占有を継続して時効が完成したときは、登記がなくてもその第三者に時効取得を対抗することができます(最判昭36・7・20)。本肢のケースにおいて、判例は、抵当権設定登記を受けた第三者に対しても、同じことがいえるとして時効取得を認め、その結果、抵当権は消滅するとしています(最判平24・3・16)。
2 妥当でない。
時効完成前の不動産の譲受人と時効取得者は、物権変動について当事者の関係に立つため、時効取得者は、登記なくして、取得時効を対抗することができます(最判昭41・11・22)。
3 妥当でない。
時効完成後の不動産の譲受人と時効取得者は、対抗関係に立ち、先に登記を受けた者が当該不動産の所有権を取得することができます(最判昭33・8・28)。しかし、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続した場合には、登記を経由しなくとも時効取得を対抗することができます(肢1参照。最判昭36・7・20)。
「時効完成前」の所有者及び第三者に対して、時効取得者は、登記なくして不動産の時効取得を対抗することができます。一方、「時効完成後」に生じた第三者に対しては、時効取得者は、登記がなければ不動産の時効取得を対抗することができません。
4 妥当でない。
取得時効を援用する者は、占有開始時を任意に選択することはできません(最判昭35・7・27)。
占有開始時を任意に選択できないのは、時効の起算点を操作することによって、登記がなければ時効取得を対抗できない場合でも対抗できるようになるからです。
5 妥当でない。
判例は、「甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても、背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが、その場合であっても、少なくとも、乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要がある」としています(最判平18・1・17)。したがって、「少なくとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことを要する」というわけではありません。