2026/2/19
その文章、長すぎて読まれていません ── 「伝わる」を科学するライティング術(前編)
文章を書くとき、私たちは無意識に「丁寧に、漏れなく説明しよう」と考えます。
読者に不親切だと思われないよう、前提条件を付け加え、補足説明を差し込み、気づけば一文が3行、4行と膨れ上がっていく……。
心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
しかし、皮肉なことに、文章は丁寧になればなるほど、つまり「長く」なればなるほど、読者には伝わりにくくなります。
これは書き手のスキルの問題ではなく、人間の脳の仕組みと、日本語という言語の構造に起因する明確な「理由」があるのです。
一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会が編纂した『日本語スタイルガイド(第3版)』では、実用的な文章作成の指針として、「一文一義(一つの文には一つの事柄を書く)」の重要性が強調されています 。
なぜ長文は「悪」とまで言われるのか。
そのメカニズムを解き明かしていきましょう。
一つ目の理由は、人間の脳が一度に処理できる情報の量には限界があるからです。これを専門用語で「認知負荷」と呼びます。
文章が長くなると、読者は文頭に書かれた主語や前提条件を脳の片隅に保持したまま、延々と続く修飾語を読み進め、ようやく最後にたどり着く述語と結びつけなければなりません。文が長ければ長いほど、この「情報を保持しておく負担」が増大します。
結果として、読者は文の終わりに到達する頃には、「結局、何の話だったっけ?」と内容を忘れてしまったり、思考が停止してしまったりするのです。同ガイドラインが1文の長さを「50字以内」に抑えるよう推奨しているのは、この脳の負担を最小限にするためです 。
二つ目の理由は、日本語特有の「構造の曖昧さ」にあります。長い文章は、主語と述語、あるいは修飾語と被修飾語の距離を遠ざけます。
たとえば、次のような一文を考えてみてください。 「昨日、新しく導入されたばかりで非常に高機能なオフィスの複合機を使って、資料を印刷した。」
この場合、「昨日」は「導入された」にかかっているのか、それとも「印刷した」にかかっているのかが曖昧です。文が長くなり、修飾関係(係り受け)が複雑になるほど、読者は「どの言葉がどこにかかっているのか」を推測で補わなければならなくなります。
『日本語スタイルガイド』では、修飾語は修飾する語句にできるだけ近づけるべきだと説いています 。長文はこの基本原則を真っ先に破壊し、書き手の意図とは異なる「誤解」を生み出す温床となるのです。
実は、長い文章を書くのは、書き手にとって非常に「楽」な行為です。
頭に浮かんだ順に接続詞でつなげていけば、思考を整理する手間が省けるからです。
しかし、それは情報の整理という「コスト」を読者に押し付けていることに他なりません。読者は、書き手がサボった「情報の取捨選択」や「構造化」を、読む過程で肩代わりさせられているのです。
特に現代のように、スマートフォンなどの小さな画面で情報を取得する環境では、視覚的な圧迫感も相まって、長い文章はそれだけで「読むに値しない」と判断され、離脱の原因となります。
| 匠 習作(たくみ しゅうさく) プロフィール
1962年生まれ。北海道函館市出身。本名は菊地孝仁。1988年より医療機器メーカーに勤務し、1991年20代で工場長に就任する。2014年までの23年間、医療機器製造工場の生産管理、人材育成、生産技術に携わる。2012年技術士機械部門、総合技術監理部門を同時に合格し、2016年に独立。 次世代のエンジニアを育てるべく、技術士試験対策講座を主催する。日本で初めてグループウェアを使った通信講座であり、分かりやすい解説、講師と受講者1対1を大事にする指導で人気講座となる。また、科学技術全般を、一般の人・子供向けに分かりやすく説明するサイエンスカフェなども自主開催。機械学会・失敗学会では、事故事例の研究などを行い、これも一般の人向けにセミナーなども開催している。 匠習作技術士事務所代表技術士 |
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