社会保険労務士の資格を取得しようと決意すれば、あとは一心不乱に受験生活を送っていくだけ。しかし取得を決める前段階では、「自分に社会保険労務士が合っているのか?」と疑問に思われるかもしれません。ここでは資格軸目線から、社会保険労務士の試験がどんな方におすすめなのかを考察します。

人事労務部門に勤務中の方

社会保険労務士は、人事労務部門にお勤めの方におすすめの資格です。その理由は自身の仕事と職務内容について非常に親和性が高く、働きながら勉強時間を確保することへの理解が得られやすいから。受験勉強には言うまでもなく一定の時間が必要であり、仕事一辺倒では合格を勝ち取ることが厳しいでしょう。

また、受験勉強において職場の理解の重要性の占める割合は大きく、社会には受験勉強を良く思う人ばかりではありません。「資格取得後はいなくなるのでないか」と考え、受験勉強していることがわかった際に冷遇されるという残念な声もあります。

昨今、働き方改革により労働関係法令が目まぐるしく改正されており、企業である以上これらの法律改正を無視することはできません。しかし、日常業務と並行してこれらの法律改正の情報収集や改正後の実務ベースへの落とし込みは、一定以上の経験とスキルを要します。働き方改革は社会保険労務士の中心的な業務範囲です。社会保険労務士試験に合格して社会保険労務士登録した後には、会報などを通してスピーディーかつタイムリーに情報をキャッチすることができるでしょう。当然、そのようなネットワークやスキルを有した人材は組織にとっても必要不可欠であり、人事労務部門においては中心的な存在となるはずです。

社会保険労務士という資格は独立開業以外にも、「勤務社労士」として企業に属しながら社労士として活躍するという選択肢があります。また、人事労務部門は労働関係法令だけでなく、社会保険(年金や健康保険)に関する手続きも業務に含まれていることが少なくありません。社会保険関係諸法令についても、社会保険労務士の中心的な業務となります。社会保険上の手続きには、老後の年金や私傷病により就労が困難となった場合に支給対象となる場合がある傷病手当金など、いずれの給付も申請しなければ受給することはできません。これらの給付を案内または必要に応じて助力することで、従業員との信頼関係は深まることでしょう。社会保険労務士の扱う法律数は多岐にわたり、一朝一夕に覚えられるものではありません。しかし人事労務部門に勤めており、体系立てて本腰を入れて学びたいということであれば、従事する職務内容と非常に親和性が高い資格と言えます。

独立志向が強い方

「勉強することだけ」を目的として、社会保険労務士試験に合格するというケースは少ないでしょう。受験勉強しながらも自身の合格後のイメージがあるからこそ、苦難も乗り越えられるというものです。

例えばコロナ禍により、日本の三種の神器と謳われた「終身雇用」「年功序列」については懐疑的な見解となっています。現在の雇用形態や賃金水準を終身にわたって保証し続けることができる企業は、もはや皆無と言っても過言ではないでしょう。また、日本の人事制度については人事部などが従業員のキャリアパス(どのような部署に異動させどのようなキャリアを積ませるか)を握っている状況で、必ずしも自身の専門性を発揮できるとは断言できません。近年は国を挙げて副業兼業促進を掲げていますが、そもそも副業兼業を禁止しているという企業も多く、自社の限られた職務内容を通じて自己成長を遂げることとなるでしょう。その点をリスクととらえ、特定の資格を取得し独立したいという考えを持ったビジネスパーソンが増えています。

また、現役世代には昭和・平成・令和と三世代にまたがるビジネスパーソンが机を並べることが多くなり、ジェネレーションギャップから会社員生活に馴染めず退職を決断する例も少なくありません。独立するにあたっては、使い方を誤らなければ資格はあって損するものではないでしょう。

取得して登録しなければ特定の業務を行うことすらできない資格もあり、社会保険労務士もその一つです。また、人生100年時代と叫ばれ、定年のない独立は(当然、独立当初などは大きなリスクもありますが)ある意味で安定(定年がなく自身でキャリアパスを描ける)とも言えます。独立を勧めるということではありませんが、会社員として勤務している場合、一部の例外を除き上司や仕事は選べないことが多いでしょう。それが長年蓄積すると、ストレスに変ってしまいます。一定のストレスは、自身を成長させるためには必要なものかもしれません。しかし、ストレスに苛まれている状態を黙認し続けるのは、あまりにももったいないことでしょう。自分自身の将来を助ける意味でも「独立したい」という声があることから、時代の流れは変わってきているのではないでしょうか。

定年後であっても働きたい方

資格試験のために勉強する目的として、「お金を稼ぎたい」という欲求もあるでしょう。現行の法律では特定の業種を除き60歳を下回る定年が禁止されており、その後、希望すれば65歳までの雇用(再雇用など)が求められています。また、2021年4月からは70歳までの継続雇用努力義務化も施行されました。人生100年時代における60歳・65歳は人生の終盤とは言い難く、その後の人生も一定以上の期間があります。会社によっては70歳を超えても雇用契約を締結しているケースがありますが、決して多いとは言えません。そこで、投資にはハードルを感じることから、定年後に退職金の切り崩しや年金だけの生活では心もとないという場合に備えて、自身でスキルを身に着けて社会貢献したいというニーズが増えてきているようです。そんな中、企業あるいは「ヒト」にとっての専門家である社会保険労務士の資格を取得するという方が多く見受けられます。

定年後であれば、いわゆる現役時代よりも時間的な余裕もあることから、環境的には勉強しやすい環境が整っていると言えます。定年とは会社が定めた働くことができる年齢・期間の上限であり、労働者の個人的な主張(例えば定年後も働き続けたい)が通ることは稀です。よって、自身で能動的に働き続けられる基盤を作るという意味で社会保険労務士は有用と言えるでしょう。また、年金をもらわない、健康保険を一切使わないという人はほとんどいないはずですので、会社以外に自分自身や家族を助ける面でも、意味のある資格ではないでしょうか。

独立後も安定を考える方

社会保険労務士の報酬形態の特徴として、中小企業の顧問となりって毎月顧問料を頂くことが挙げられるでしょう。顧問料ビジネスは毎月一定額の報酬があることから、数社顧問となることで安定収入となります。社会保険労務士の業務範囲は雇用や退職だけに限らず、出産や育児、介護、休職など企業にとって必要不可欠な「ヒト」に起こる出来事に対応可能です。このことから、企業で専門的な知見を有する場合を除き、社会保険労務士のニーズは高いでしょう。

そして特段のイベントがない場合でも、「労務トラブル」は突発的に生じるものです。残業代の未払いや有給休暇の不適切な管理等は従業員の就労意欲を削ぐものであり、黙認し続ければ企業の生産性にまで影響を及ぼします。また、SNSでの情報発信が普及している現代社会において、そのようにずさんな管理は新たな人材の採用にも負の影響を与えかねません。

労務トラブルはそもそも発生しない土壌を形成する、適正な初動対応、時間が経った場合には選択可能な選択肢を提示して経営判断などの対応が想定されます。これらの助言も、社会保険労務士の業務分野です。特に今後は働き方改革によって残業などの規制が法律によって明確に上限が定まり、違反した場合には罰則が科せられるだけでなく社会問題としも注目されてしまう点は、想像に難くありません。自身が所属した企業で負の記憶がある場合、社会保険労務士となった後に違法状態を事前に摘み取るという意識を持っている方であれば、非常に有用な資格であると言えます。

転職を考えている方

企業でありながら、人事労務部門がないという会社は少ないでしょう。人事労務の専門家である社会保険労務士は企業にとって貴重な戦力であり、当該部門のリーダー的な位置づけでもあります。労働・社会保険各法の専門家であり、部署内で判断に迷った際も客観的かつ合法的な判断が可能です。

また、自己防衛のために資格を取得するというケースも見られます。独立開業までは決断できないものの、会社員でありながら社会保険労務士として研鑽を積んでいくという選択は可能です。そこで、会社から毎月一定の給与を得ながら、社会保険労務士としてのスキルを積んでいくこともできます。その場合、都道府県社会保険労務士会等への一定の費用の支出は避けられません。しかし、それと引き換えに多くのタイムリーな情報を得られ、各種勉強会にも参加できることから、活用の仕方によって合格後の知識の忘却を防ぎつつ独立に備えるということもできるでしょう。

女性でキャリアを積みたい方

日本のジェンダーギャップ指数は諸外国と比べて低水準であり、女性の社会進出が進んでいないとの指摘があります。社会保険労務士は国家資格であり、かつ、女性の活躍できる土壌が広いと言えるでしょう。年金相談や妊産婦への労務管理などは、女性ならではのきめ細やかさが必要です。年金を始めとしたライフプランのコンサルティングなど、人生100年時代において需要が減るということは想定し難いのではないでしょうか。

また、社会保険労務士の重要な仕事である社会保険や労働保険の申告では、正確な事務処理能力が必要とされます。このことからも、女性の活躍できる土壌が整っていると言えるでしょう。受験勉強中も自身がそのような活躍をしている姿を思い浮かべ、受験生活を送る受験生がたくさん見られます。

まとめ

社会保険労務士は企業にとって右腕となり得る資格であり、平均余命が伸びている時代においては非常に親和性の高い資格。受験勉強では「記憶する」という行為を何度も繰り返しますが、そのような地味な作業にもハードルを感じない方にはおすすめです。資格取得後は対企業であっても対個人であっても活躍できる土壌があり、業務分野が広い資格となります。逆に、あまりにも業務範囲が広すぎて、すべての範囲でスペシャリストになることは難しい資格と言えるでしょう。そのため、自身が進むべき専門分野を決めて研鑽を積んでいくという考え方も重要です。

また、対象となる分野が広いことから毎年細部にわたって改正が行われています。これまで記憶している知識を書き換え、さらにブラッシュアップしていくことが求められるでしょう。誤ったままの認識では違法となる場合もあり、法改正への対応は職務上も必要不可欠です。法改正はこれまでの取り組みを見直すきっかけにもなることから、企業や個人にとってはさまざまな提案が可能となります。今後も現役世代の減少は解消の見込みが立たず、多くの法改正の必要性が叫ばれています。そのような状況下において、特に社会保険労務士の有資格は活躍できる場が多いでしょう。

[筆者プロフィール]
蓑田 真吾(みのだ しんご) 熊本県出身。社会保険労務士。みのだ社会保険労務士事務所代表。顧問先企業の労務顧問や社会保険における相談、手続きを行う。