同じファイナンシャルプランナー資格(FP資格)でも、人によって取得を目指すきっかけは多様です。しかしそこには、資格試験の合格に向けて大きなモチベーションになる理由が詰まっているもの。勉強に行き詰まったりやる気が湧かなかったりするときは、初心に戻ってみると良いかもしれません。
また、他の人がなぜFP資格を目指しているのかを知るのも、新たな発見に繋がります。中でもすでにFPとして活躍している、つまり資格取得を果たした人のきっかけは、新たなモチベーションを生み出してくれるのではないでしょうか。そこで、今回は保険業界を経てFP資格を取得し、現在は独立系FPとして活躍されている小川洋平さんにお話を伺いました。
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Q:現在のお仕事やこれまでのご経歴など、簡単なプロフィールを教えてください
大学卒業後、新卒で地元の自動車部品メーカーに3年間勤務しました。地元の自動車部品メーカーで、主に携わっていた仕事は納期管理業務です。入社時は好景気で生産が追い付かず、客先に納期調整を依頼してばかりでした。しかし、在職中に起きたのがリーマンショック。これを機にして受注の大幅な減少や協力企業の倒産、廃業、派遣切りなどを間近で見たことで、経済の動きで世の中がこうも大きく変わるのだと実感しました。
その後に損害保険会社で1年間の研修を経て、実家の保険代理店に転職。当時、保険に関する知識はまったくありません。6年間にわたり保険営業に携わった後、保険商品の販売ではなく、相談を主な業務とする独立系FPとして開業しました。
独立後は企業の経営サポートや個人の資産形成や住宅ローン、保険相談などを経験。また、地元商工会や商工会議所、大手金融機関からの委託での講師業も行っています。2021年には法人を設立。FPとしての知識と相談経験、自身の独立開業の経験、さらには経営に携わってきた経験を活かし、起業家のライフプランや経営のお金の支援を主に行っています。
Q:なぜFP資格を取得しようと考えたのでしょうか?
保険営業を始めて2年目に、自分の知識ではお客様のためになる提案ができないと思うことがありました。そこで、保険商品だけではなく全体的なお金の知識、特に金融知識の必要性を感じて、FP資格の勉強を始めて取得したんです。
当時、私は貯蓄系の保険を「保険料がムダにならないお得なプランだ」と思い提案していましたが、そんなプランが海外の金融商品を仲介する業者さんから「これではお客様のためにならない」とダメ出しされたためです。そのダメ出しの理由は、日本の財政が危機的状況であり、日本円の暴落が考えられるため。急激なインフレなり、終身保険や個人年金保険といった貯蓄系の保険ではお金の価値を失ってしまうということでした。そして、海外の金融商品なら将来に向けて大きく資産を育てることができ、財政危機から資産を守ることができるとのこと。そこで、海外の金融商品の仲介業者としての勧誘を受けたんです。当時の私の知識では考えもしない、自分が苦手だった分野のことで、そのときはどうにも判断ができませんでした。
これまで、自分が関わる必要が無いと思っていた知識です。しかし、ここをしっかり勉強していかないと、自分の知識不足が原因でお客様に損をさせてしまうかもしれないと思ったのが、FP資格の取得を決めた経緯です。
Q:FP資格を取得して、仕事内容などに変化はありましたか?
FP資格を取得してお金の知識が増えると、これまで全く見えなかったことが見えるようになりました。社会保険の知識を活かしてお客様のライフプランに合った保険提案に活用していただけでなく、確定拠出年金の税金のメリットの大きさと投資が将来の資産形成に大変有効であることを伝えてお客様に喜んでいただいたり、無理しない住宅ローンの返済計画やローンの選び方などのお話をしたり。それをきっかけに、生命保険の見直しや火災保険の契約等に繋げ、それらの知識をセミナーで講師としても伝えるようになりました。
Q:FP資格を取得するうえで、苦労したことを教えてください
専門とする保険以外の分野のことは、とにかくテキストに出てくる用語が全くわからず、何が書いてあるのか理解することが大変でした。ですから、まずは金融や経済、税金、年金制度のことがわかりやすく図解で解説されている本を購入。これらを読み、全体像をある程度理解してからテキストで勉強をするようにしました。
その分野の大枠や本質的なところがわからないと、いくら勉強しても頭に入ってきません。しかし、全体像を掴めた後にテキストを読むと、その用語などの理解度が高まったんです。試験が終わった後も、実戦で使える自分の知識にすることができました。
また、自分の専門分野でできるだけ得点できるように練習。苦手分野は頻繁に出題されている範囲のみを覚えて、合格ラインを超えることを目標にしました。基本的には、わからなくてもまず過去問をこなす。そして、わからないところをテキストで調べるという流れで繰り返し、問題の出題パターンに慣れていきましたね。
Q:FP資格を取得し、当初思い描いていた希望は叶いましたか?
当初の目的であった、保険営業としてお客様の役に立つためのFPの知識、金融経済の知識を身に着けること。これが実現でき、経済を正しく俯瞰できる知識と投資信託を活用して、将来の資金をつくることが有利であること、そこで確定拠出年金に大きなメリットがある点に気が付くことができました。その後、自身が取り扱っていた保険商品ではなく確定拠出年金を活用した資産形成をお客様に推奨したり、住宅ローンの相談にのったり、無料でFPの相談を始めていきました。
しかし、お客様にとって有利な制度の活用について時間を掛けて教えたり、サポートしたりしても、当時の私のお仕事は保険営業です。結局のところ保険商品を販売することで収入を得ている自分に対し、違和感が出始めたんです。そこで、6年半続けた営業の立場から、相談を主な業務にするFPとして独立しました。
Q:FPの資格取得後、当初の想定と違っていたことは何かありますか?
FP資格を持っていることで、お客様から信頼を得られると思っていました。しかし、ただ名刺に書いてあるだけでは、あまりお客様の反応に変化はありません。思ったより知名度が無い、FPが何をしている人なのかよくわからないという方が多いことが意外でした。
しかし、お金の知識を得たことで、当初考えていたよりも視野がずっと広くなったと感じています。FPの知識をもとに実務の知識と経験を積み上げてきたことで、もっと広く、深いことが見えるようになりました。保険の販売手数料ではなく、お客様から相談料をいただくファイナンシャルプランナーとして独立したことが自分自身でも驚いています。
自分で活かそうとせず名刺に書いてあるだけなら、ほとんど意味はありません。しかし、学んだことを自分で活かそうとすれば大きく視野が広がり、自分の得意分野や経験、好きなことと繋ること。そうすれば、自分だけのオリジナルのビジネスを創り上げることもできる資格だと気が付きました。
Q:現在、主にどのような業務に従事されていますか?
確定拠出年金の活用を中心に、自分と同じ立場の個人事業主や小規模な法人経営者など起業家を中心に相談業務を行っています。自身の独立経験や会計や労務管理の知識などを活用し、将来のお金のこと、現在のお金をより豊かにするために仕事もプライベートもやりたいことを実現するライフプランと、経営との2つの側面でお金のサポート。また、知っておくと有利な知識をセミナー等で伝えています。
会社がある程度の規模になれば、総務や経理担当者が社内にいて労務管理や会計などを担当してくれるでしょう。しかし成長段階の企業では、整備されていない点がある場合が多くあります。そのため、経営者が一人で担っていたり、税理士や社会保険労務士に頼みながらもまだ会社の仕組みが整備できていない場合があったりするもの。そこで、税理士や社会保険労務士と連携しながら、会社としての体制整備も行っています。
Q:今後、FPとしてどうなっていきたいと考えていますか?
顧客やセミナーに参加してくれた方々と会社の成長に合わせ、確定拠出年金をはじめ福利厚生や会社の成長に繋がる制度の整備、すでに確定拠出年金を導入されている企業様の講師の仕事の実績を積み、新潟における確定拠出年金の第一人者になりたいと考えています。自身の事業とFP協会での活動を通じ、多くの人にFPの存在を知ってもらうこと。お金のことはFPに相談するという習慣を、日本に定着させたいと思って活動しているんです。米国では子供たちが将来なりたい職業の中にCFPが挙がりますが、日本でも子供たちが憧れる職業となればと思っています。
FP資格によって知識を広め、深めて業務の幅も広がる
小川さんは保険営業として勤務する中で感じた知識の不足をきっかけに、自分の「こうありたい」という思いを実現させるためにFP資格を取得したことが分かりました。もともとお金に関する知識があったわけではなく、保険以外のことは土台を作ったうえで学びながら身に付けたとのこと。こうした勉強方法も、参考になった方は多いかもしれません。
FP資格はその専門知識によって、仕事内容にも大きく影響を与えます。ご自身が望めば、小川さんのように独立することも可能です。改めて自分がFP資格を取得しようと思ったきっかけを思い返してみてください。そこには、きっと勉強のモチベーションに繋がる目的や目標があるはずです。
[プロフィール]
小川 洋平
CFP、DCマイスター。保険営業で6年半従事し、猛勉強の末に金融や年金、会計等の知識を身に着ける。その後、2016年に保険商品や金融商品の販売を目的としない、第三者の立場のファイナンシャルプランナーとして開業。iDeCoや資産運用の相談、個人事業主、小規模法人経営者様の企業年金制度の相談、住宅ローンの相談、企業内研修の講師、企業の経営再建等にも携わる。自身の独立の経験と、保険営業時代からの資産運用、会計、年金の知識と経験を活かし小規模事業者の将来の資金創りと経営を支援。現在は独立系FPとして、主に起業家のライフプランや経営のお金のサポートを実施するほか、YouTubeでお金の知識に関する情報配信、企業型確定拠出年金の講師業も行っている。
合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと・認定FP、NPO法人日本ファイナンシャルプランナーズ協会CEP認定者。
https://fpsdn.net/fp/yogawa/#prof
<取材・執筆:三河賢文>