はじめに

宅建士はそもそも、何のために存在する資格なのでしょうか?
先に結論を言ってしまうと、「私たち消費者の保護」。
家を買うとき、借りる時、トラブルが起きないようにするための資格です。
では、そんな資格が生まれた背景と、今、宅建士に期待されている役割について見てみましょう。
歴史的な背景からも、宅建士の魅力を探っていきます。

宅建士設立の背景

まずは宅建に関する法律。
宅建士の試験科目のひとつとなっている「宅建業法」は昭和27年に制定されています。
当時は不動産の取引は「登録制」で、今のように免許が必要なものではありませんでした。
基本的に「登録をすれば誰でもできる」ということです。
すると何が起きるでしょうか?
容易に想像がつきますよね。
知識や経験を持たない人同士が不動産を売ったり買ったりすることによって「こんなはずじゃなかった!」「聞いていない!」というトラブルが多発。
業界全体で、何らかの資格が必要ということで、前身の「宅地建物取引員」という資格制度が設けられました。
これが昭和32年のことです。
その後、名称が宅地建物取引主任者→宅地建物取引士と変更され、それに伴い役割も明確化され、現在に至ります。
なお、宅地建物取引士という名称になった、すなわち「士」に変更となったのは、「役割の重要性を反映する資格名称にしたい」という不動産業界の意図が国会で認められ、法改正されたことによります。
弁護士、公認会計士、税理士、みな「士」がついています。
かたちの上では「先生」と呼ばれる資格の仲間入りをしたと言えるのかもしれません。

「情報量の差」を埋め、「高額商品」の購入を失敗させない

ご存じのとおり、売り手と買い手の間には情報量の差があります。
目に見えるもの、例えば「スーパーで野菜を買う」という状況でしたら、私たちも消費者として「しなびている」とか「腐っている」だとかの判断はしやすいですし、仮に、思っていたようにおいしくなかったとしても、そこまで怒る方もいらっしゃらないでしょう。
とは言え、不動産は違います。
この土地で何があったのか、住んだらどうなるのか、一般の消費者である私たちには、なかなか知るすべがありません。
一方、売る立場になってみると、「商品に関する悪いことはできるだけ隠したい」と思うのも、モラルには反しますが、時として逆らえない誘惑なのかもしれません。
また、不動産は取引の金額も莫大です。「何十年にもわたるローンを組んだのに、実は、土地が自分のものにならない契約だった!」などということがあっては、その人のその後の人生に、多大な損害を与えることになります。
つまり、「情報量の少ない消費者を保護するために、一定の知識とモラルを持つ(と思われる)人物を不動産取引に介在させよう」というのが宅建士制度の趣旨と言えるでしょう。
本サイト別ページ内に重要事項説明(通称「重説」)に関する記事があります。
重説というのは「その情報がないと消費者が大ダメージを受ける」情報のことを指します。その情報の説明義務が宅建士に課されているのも、消費者保護の制度主旨から見れば、至極当然と言えるでしょう。
ちなみに、このように、取引を保護するために規制があるのは不動産取引にかぎった事ではありません。
売り手と買い手の知識の差があり、一定のモラルや規制が必要である業種、例えば金融業では取引に制約が加えられていることがあります。
お客さんに保険の商品を勧めるには保険募集人の登録が必要ですし、投資コンサルタントをやりたければ、投資助言代理業の許可を取る必要があります。

宅建士試験を運営する(財)不動産適正取引推進機構って何?

宅建士の試験を運営しているのは「一般財団法人不動産適正取引推進機構」という団体です。
免許を与えるのは都道府県知事ですが、試験の運営を委託されているのはこの団体です。
とは言え、この団体は宅建士の資格試験のためだけに存在する団体ではありません。
「不動産でどんなトラブルが起きているのか」「海外ではどんな不動産取引のケースがあるのか」といった研究や、消費者などから寄せられる質問に回答するなど、不動産の円滑な取引のために手広く業務をおこなっています。
役員の方を見ても、大学の法律の先生や、不動産に関する団体、および銀行の不動産関連部署の偉い方が名を連ねています。
不動産適正取引推進機構は、各種不動産関連団体の中でも「不動産トラブル防止に特化した業界団体」だと言えます。
宅建士試験を運営するのも当然ですね。

まとめ

宅建士の設立背景は消費者保護、トラブル回避です。
私たちが安心してアパートを借りたり、住宅を購入できたりするのは、宅建士のおかげと言っても過言ではないのかもしれません。
消費者保護という極めて公共性の高い役割も担う資格。
そこに面白みや、ビジネスチャンスを見出す方もきっといらっしゃることでしょう。

(参考サイト)
一般財団法人不動産適正取引推進機構ホームページ: http://www.retio.or.jp/