公務員から公務員の転職、あり?なし?

「せっかく公務員に採用されたのですが、毎日が単調業務の繰り返しで、刺激が無い生活に飽き飽きしてしまいました。ある日、いつものように休憩時間中にこっそり抜け出し、怪しいサイトに課金して動画を見ていたら、それが見つかって噂になってしまったんです。同僚から無視されるようになってしまい腹が立って、ネット上に匿名で職場や同僚の悪口を書いていたら、知人に特定されてしまいました。『バラされたくなかったら金を払え』と脅されて・・・もう思い切って別の自治体に転職しようと思うんです」

これは実際に公務員の職場で追い込まれてしまった人が、転職を決意するに至った悲痛の叫びである。公務員試験に合格したからと言って、それで人生が終わる訳ではない。行き詰まったら他のルートを考えることも選択肢の一つだ。今回は公務員から公務員への転職をテーマに考えてみたい。

まずは転職とは何かと言う基本的な認識から確認していこう。

転職のイメージが変わった

日本は昭和の時代から新卒採用で終身雇用と言う働き方が一般的であり、転職と言うのはあまりよく思われてこなかった歴史がある。生涯一つの主君に忠節を尽くすのが武士道の誉れであった。しかし、世界の先進国に視点を変えると、転職を重ねながら自身のキャリアを構成していくことが多い。

「転がる石には苔が生えぬ」と言う格言を知っているだろうか。イギリスや日本では、苔を価値あるものとして捉え、「あちらこちらに行く人には価値が付かない」とマイナスの意味で考えられてきた。島国の哀しい性なのだろう。とても保守的である。一方でアメリカや中国などの領土の大きな国では、苔を「価値の低下」と捉え、「あちらこちらに行く人は価値が低下しない」とプラスの意味で考えられている。さて、現代はインターネットの発達によりグローバル化が進み、島国であろうが世界とつながることができる。そして、日本においても転職が当たり前になってきている。 もはや御恩と奉公の関係は崩れ、我が身を立てるために環境や情勢の変化を感じ取り、自分が最も輝く場所を自分自身で探し求めなくてはいけない時代に突入した。

採用側から見た公務員転職

誰でもどこへでも好きな時にホイホイ転職できるのであれば、面白い人生を歩めそうだが、残念ながら現実は甘くない。採用側からすると、新しい人材を教育するコストがかかってしまう。せっかく戦力になりそうな状態まで教育したところで競業に転職されたら堪ったものではない。

故に採用は、一旦教育すれば長く利益に貢献させられる新卒、もしくは既に相応の技術を持っており即戦力で使える経験者中途採用であり、いずれも「すぐに辞める人間はお断り」になるだろう。

「では経験者である公務員は、公務員への転職に優位に働くのではないか」

そう結論付けるのは早計だ! 専門的な職業であれば技術を高く評価してもらえるが、民間企業と比べて公務員はそこまで専門的な技術(特に属人的なレベルの専門性)は要求されない。「プロ中のプロ公務員」と言う看板は存在しないのだ。

一方で、公務員のメリットは何と言っても安定性である。福利厚生など非常に守られた職業だ。採用担当としては、「何故、安定の公務員を辞めるのだろうか?」と言う疑念が生じる。「他にこう言う仕事がしたかった」「実は〇〇になるのが夢だった」などの前向きな理由であれば辞めるのも納得ができる。しかし、転職の志望先はまたしても公務員・・・。もしや、「ここの自治体の住民、自分に合ってないんっすよね。でも、生活費必要なんで隣の自治体に転職しよっかなー」と、公務員転職を繰り返すヤドカリ族ではないか、と警戒を強める。よって、受験者は「自分はヤドカリでは無い」と言う点を証明しなくてはいけない。

公務員から公務員の優位点は?

さて、ここまで考察してきたが、やはり総じて公務員から公務員の転職は不利である。但し、有利な点もある。公務員は処世術以外のスキルがあまり磨かれないため、民間企業への転職ではなかなか力を発揮できないが、公務員への転職だと戦い方の答えを自分の内側から出すことができるのだ。詳しく見てみよう。

多くの者は公務員試験を受験する際に手探りで情報を集めながら戦略を模索している。前職が外資系で「仕事では意見を躊躇無く言うのが評価される」と信じて、面接でズバズバ言いたいことを率直に話したら不採用になってしまった、と言うケースもある。面接は、相手(採用側)がどのような人材を求めているかを見極め、そこに合わせながら回答をしていくことが鉄則である。だが、組織文化が違うため、異業種からの転職はそこを読み違えてしまうことが多い。その点、前職が公務員であれば、「どんな人なら公務員から公務員で採用されるか」を、採用側の視点で具体的に考えることができる。合格する回答が見えているから、後はそこに合わせて辻褄を合わせて対応するだけだ。

例えば、民間からの転職理由だと、

「前職よりも住民のために働くことに魅力を感じて志望しました」

と言う仕事の内容に関しての方向性が強くなる傾向にあるが、公務員から公務員の場合、仕事内容は転職後もさほど変わらない。民間の同業者間の転職であれば細かい部分の差異を煮詰めて検討していくことになるが、公務員から公務員の場合は、あまり細かな差異を強調すると、「無理矢理考えた志望理由」と受け取られてしまう。

そこで行き詰まったら、もし今の職場で公務員から転職採用されるとするとどんな人だろうか、と考えてみよう。

「家庭の事情で〇〇市(受験する自治体)に転居することが決まっており、今の上司とも相談した結果、受験をするに至りました」

この回答であれば完璧だ。上司と相談しているところから、関係が良好で円満転職であることも間接的にPRすることができる。

これは一例であるが、このような「採用される模範回答」を自らの経験から感覚的に導き出すことができる。多くの受験者が正解を求めて彷徨っている中において、正解がわかるのはこれ以上無い強みであると言える。転職するとは言え、今まで働いてきた時間は伊達では無い。それが血となり肉となって、公務員気質が身に付いているのだ。己の内側の声に耳を傾け、どのように戦えば良いかを十二分に練ってもらいたい。