住宅や建物の売買・賃貸取引などについて、専門的な知識を持つことの証明となる宅地建物取引士(以下、宅建士)。国家資格であり、資格取得を目指そうと考えている方は多いでしょう。しかし宅建士は、決して簡単な資格試験ではありません。計画的に勉強を進め、合格を目指しましょう。
今回はこの宅建士資格を持ち、不動産業界で経験を積んできた阿孫沙綾さんに、試験合格に向けた勉強法についてお話を伺いました。「もっと効率的に勉強したい」「なかなか勉強が進まない」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
――宅建士の取得を目指した時期とキッカケは?
宅建士の取得を目指した時期は、社会人1年目の頃。新卒で中小企業の不動産仲介会社に入社しましたが、その頃は「一生、不動産業をやり続ける!」という思いが強かったですね。そのためには宅建士の資格はマストであり、資格を持っていないと恥ずかしいという認識でした。いつ取ろうという時期は明確に決まっていなかったものの、資格を取ることは不動産会社に入社が決まった時点で決めていました。
実際、私が新卒で入社した会社では、社長や事務の方を含めて全員が宅建の資格を持っていたんです。それもあってか、入社して間もない時期に社長から「宅建の資格は絶対に取ってね。取れなかったら…わかるよね?」と言われ、強烈なプレッシャーを受けたことを覚えています。そのときに自分の中で気持ちが固まり、「なにがなんでも今年取ろう」と決意しました。
――宅建士を目指すに当たり、まず何から始めましたか?
自分の中では独学で勉強する選択肢しかなかったので、教材選びをこだわりたいと思い、自分に合ったテキスト・過去問集選びから始めました。当時はスクール通学や通信講座を受講するほど金銭面に余裕はなく、さらに周りの先輩方から「宅建は独学で十分に合格できる」と言われていたので、私は独学で勉強したんです。
教材選びにこだわりたかったのは、学生時代から決めていたことがあるから。中学生や高校生の頃、漢検や英検など検定試験を受ける機会が多く、その頃からテキスト選びの基準を決めていました。私の教材選びのポイントは、「極力本が薄く、そして文字が大きくイラストが多い」もの。このようなテキストを選ぶのには、見るのが嫌にならないよう、そして飽きずに勉強が続けられるようにという意図があります。
教材は数えきれないほどありますが、根本の内容はそれほど変わらないだろうと思っています。ですから、私はこのような基準を満たしているテキストを選び、同じシリーズの過去問集も合わせて購入しました。また、テキストが何冊もあると気持ちは安心できますが、同じ内容のものを複数冊で確認する時間がもったいないので、テキスト1冊と過去問集1冊に絞っていました。
――合格までどの程度の期間を要しましたか?
私が試験を受けた当時は、半年勉強するのが一般的と先輩方に教わりました。そのため、私も半年を勉強期間と決めて5月から本格的に勉強を開始。しかし、実際には3月頃からテキストに目を通すなど、ゆっくりスタートさせていた気がします。
宅建試験の勉強時間の目安は300時間と言われていますが、どれくらいの期間でこの300時間を消化するかは人によって全然違います。1日の勉強時間を長く取れる方であれば2~3ヶ月、1日の勉強時間を短く長期で勉強していきたいという方なら半年以上とバラバラです。もっとも合格に至るケースが多いのは、個人的な意見ですが3~4ヶ月ではないかと思います。今は勉強方法もアプリやYouTubeなどさまざまものがあり、スキマ時間も上手く活用することが可能です。効率的に勉強できるため、忙しくても勉強期間を長く取る必要はなく、短期間で知識も定着するのではないでしょうか。
――1日あたりどの程度の時間を勉強に割きましたか?
勉強時間として確保していたのは、平日3時間と土日5時間程度です。実際は仮眠を取ったり休憩したりもしていたので、しっかり勉強できていたのはそれぞれ半分の時間くらいではないでしょうか。
家では勉強できないことがわかっていたので、平日は仕事終わりの19~22時まで会社の接客室を使わせてもらい、土日は家の近くにある図書館に昼から夕方までこもりました。家ではテレビやベッドなど私にとって誘惑が多く、また勉強の期間中に犬を飼い始めてしまったので、可愛すぎてその子を見てしまうと勉強どころではなくなっていました。そのため、とにかく勉強する環境は家以外の場所で、静かなところを選んでいたんです。カフェは他人の声が耳に入り、集中できなくなってしまうので避けていました。
また、会社が宅建勉強のために時間を割くことには協力的だったため、試験前2ヶ月くらいは平日の昼間も近くの図書館に行って勉強していました。私は昔からそうなんですが、勉強時間を短く要領良く進めるのが苦手。そのため、勉強時間をとにかく長く確保していましたね。新卒で仕事も少なく、不動産会社だったのが勉強する環境を作りやすくしてくれていたのだと思います。
私にとってきつかったのは、自分で決めたことですが「毎日勉強を続ける」ということ。そして、飲み会などの遊びに何1つ行けなかったことです。お酒を飲むことが大好きだったのですが、「好きなものを断てば目標を達成できる」と思い込んで、5月頃から一切お酒を飲まずに勉強しました。夏にはBBQやキャンプ、海など楽しいイベントがたくさんあり、誘われてもすべて断らないといけなかったのが気持ち的につらかったです。今思うとストイック過ぎたように感じますが、合格するためにはそこまでしないとダメだと思っていました。
――どのような方法で勉強しましたか?その方法を選んだ理由やメリットも教えてください
私は独学で勉強を進めました。独学を選んだのは、金銭的に余裕がなかったのと、周りの人が「独学で十分」と言っていたからです。また、仮にスクール通学ができたとしても通わなかったと思います。なぜなら、「授業を受ける」というスタイルがあまり得意ではないから。自分のペースじゃないと覚えたり理解したりすることができず、授業スピードに合わせられなかったときに意味がなくなってしまうんです。
テキストをさらっと全体的に読み流して、その後はひたすら過去問学習です。過去問10年分を3周解きました。3周終わったところで、間違った問題に絞るようにしていましたね。答えを覚えてしまっているものは、その解答である理由を言えなかったものを「間違え」と認識し、理屈がわかるまで調べて勉強していました。
なかなか自分が理解できない分野についてはYouTubeを活用。YouTubeでは宅建講師の方が細かい項目ごとに分けて動画をアップしているため、わからないところだけをピンポイントで学ぶことができます。自分の固まった考えをほぐし、違う視点で考えることができたので理解も早かったです。試験3日前に理解できるようになったものなどもありました。
独学で勉強するメリットは、自分のペース・自分のやり方で進められるというところ。もちろん、費用も最小限に抑えることができます。その分、生活リズムの調整や我慢しなければいけないことなどもありますが、それを苦に感じないようであれば良いのではないでしょうか。
――宅建士資格の勉強におすすめの方法やツールはありますか?
やはり、スキマ時間を活用して勉強するのが効率的で良いと思います。テキストや過去問集を持ち歩くのは、荷物が多くなりかさばって大変です。そのため、スマホやタブレットで勉強できるアプリを取得しておくと便利だと思います。
私が実際に使って役立ったのはYouTubeの解説動画です。自分で解決できない部分だけをピンポイントで見ることができるので、本当に役立ちました。
――資格勉強で困ったこと、悩んだことはありましたか?
最初は覚える量の多さに悩みました。簡単な内容ならまだしも、専門用語が多く法律分野は特に苦手だったので、勉強していてあまり楽しいと思えません。そのため、なかなか頭に内容が入っていかず、知識の定着に時間がかかりました。理解するためには不動産を自分の身近なことに置き換えるなどして、かみ砕いて解釈するようにしていました。
宅建の勉強は、丸暗記できるような量ではなく膨大です。そのため、少しずつ覚えていって、その覚えたことを忘れないようできるだけ時間を空けず復習を繰り返し行うようにしていました。
――勉強を振り返って「こうしておけばよかった」と思われることは?
学習スケジュールを、きちんと細かく立てておけば良かったと思います。私はとにかく勉強時間が長く、傍から見ても要領が悪く映っていたでしょう。過去問はどのように勉強すべきか、また間違えた問題に対してどのように対処すべきかなどは、自分でルールを作ってやっていました。しかし、何月からこの勉強をやって、この期間で復習するなどのスケジュールは、ほとんど立てていなかったんです。分野ごとに期間を決めるなど学習スケジュールを立てられれば、同じ時間でももう少し苦手分野を克服するための時間が作れて、点を伸ばすことができたのではないかと思います。
――これから宅建士資格の受験を目指す方に、おすすめの勉強法や勉強におけるアドバイスなどお願いします!
テキストを読んで理解を深めるより、早い段階から過去問を使った勉強を始めると良いと思います。最初のうちは問題を解いてみると、間違いが多くなるのは当然です。でも問題の構成を知ることができ、テキストの内容をどのように覚えていけば良いのかが分かります。
恐らく過去問に手をつけずテキストを読み続けていると、どういう風に問題が出されるか分からないため、丸暗記に近いような覚え方をするようになってしまうでしょう。それではいつまで経ってもページは進みませんし、勉強が嫌になってしまう可能性があります。過去問学習のおすすめは、10年分を最低3周解くこと。より多くの問題に触れた方が傾向をつかめますし、類題が出たときに対応できるようになります。たくさんの過去問に触れて完璧に近い状態にできれば、合格に限りなく近づけられるでしょう。
また、勉強期間中は毎日、少しでも宅建に触れるようにしてください。1日でもサボってしまうと楽な方に逃げたくなり、その時間がだんだん増えてきてしまいます。どうしても忙しくて時間が取れないときは移動中に一問一答を解くだけにするなど、時短しても良いので毎日勉強することを習慣づけていきましょう。
宅建は、努力すれば必ず合格できます。どのような方法でも良いので、自分が勉強を続けやすい方法を見つけて頑張ってください。