ビジネスパーソンを対象にした資格ランキングで、上位にランクインする中小企業診断士。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、事業の見直しや再構築が必要となっている中小企業が増えています。そこで、中小企業診断士は経営の専門家として、期待される役割が強まっているのです。

このような流れを受け、令和3年度の中小企業診断士試験では二次試験合格者が昨年より約400人増加しているなど、国も中小企業診断士の数を増やそうとしています。ここで、そんな中小企業診断士の今後の必要性について見ていきましょう。

中小企業診断士とは~経営コンサルタントの国家資格、AI代替可能性が低い職業

中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う経営の専門家です。中小企業支援法に基づいた国家資格という位置づけで、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められていない名称独占資格となります。

日本経済新聞社と日経HRが2016年に行った「ビジネスパーソンが新たに取得したい資格ランキング」では、中小企業診断士が一位を獲得しました。また、同じく日本経済新聞社が2022年1月に発表した「40代からの学び直し 専門家が選んだ役立つ資格は」でも、中小企業診断士が一位になっています。さらに株式会社野村総合研究所が2015年に発表した調査結果では、中小企業診断士は人工知能やロボット等による代替可能性が低い 100 種の職業に選出。こうした背景は、業務が企業よって異なる課題等に対応する必要がある非定型的な業務であること、そして経営者との親密なコミュニケーションが求められる業務であることが挙げられるでしょう。

※参考
日本経済新聞「中小企業診断士トップに」
日本経済新聞「40代からの学び直し 専門家が選んだ役立つ資格は」
野村総合研究所「日本の労働人口の49%が~  601人工知能やロボット等で代替可能に」

VUCA時代を生きる事業再構築の伴走者

新型コロナウイルスの感染症拡大により、中小企業を取り巻く外部環境は大きく変化しています。現代は不確実性の高い「VUCAの時代」と呼ばれており、予測が難しい外部環境の変化に対してしなやかに対応するには、自らの事業を常に見直して新事業の開発や事業の再構築が必要です。

しかし、中小企業が経営について相談できる先は多くありません。中小企業の身近な相談相手には、メインバンクや顧問税理士・会計士が挙げられるでしょう。しかし財務相談には対応しているものの、「企業の強みを生かした成長戦略」や「マーケティング策」などについては、なかなか相談できないという声を経営者から聞きます。

中小企業庁が発行している2020年版「小規模企業白書」でも、この傾向が分かるでしょう。経営課題に対する相談相手として「同業種の経営者仲間」「経営陣・従業員」「取引先」に期待している企業の割合が高いと同時に、「人材」や「その他(特許、企業間連携など)」といった経営課題は「期待する相談相手がいない・わからない」という回答が上位になっているとの調査結果があります。中小企業が成長に向けて自社の強みや外部環境の変化を見極めるに、経営課題を幅広い視点から診断・助言ができる専門家として中小企業診断士が求められているのです。

例えば中小企業等が行う新分野展開や業態転換等、事業再構築に利用できる「事業再構築補助金」があります。この補助金は中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた「認定経営革新等支援機関」とともに事業計画を策定することが必要です。そして中小企業診断士は、この認定経営革新等支援機関として登録している士業の一つとなっています。

一方で、私も補助金申請を支援したお客様から「初めて中小企業診断士という存在と、事業計画の相談ができる相手であることを知った」という反応をいただいたことがありました。まだ中小企業診断士が「何をしてくれる専門家なのか」という点で、認知度が低いことが課題であると感じます。

金融機関や自治体によっては、中小企業診断士を経営改善のアドバイザーとして派遣する制度もあります。大都市と比較し、地域によっては中小企業診断士の数が少ないこともあるでしょう。コロナ禍という面からも、この制度の需要は高まっているようです。

※参考
中小企業庁「中小企業・小規模事業者と支援機関」
日本経済新聞「首都圏自治体、飲食や観光業者支援 経済本格再開へ準備」

起業・創業を増やすサポーターとしての役割

もう一つ、中小企業診断士の役割として期待されている分野が起業・創業の支援です。2020年版小規模企業白書では、副業として起業を希望する、あるいは準備する人は増加傾向であるとのこと。副業として起業を希望する人は、2012年の67.7万人から2017年には78.1万人に増えているという調査結果を公表しています。副業解禁の流れも受けて、「自分で事業を起こしてみたい」というニーズは高まっているのでしょう。

この流れを受け、イノベーション促進や地域産業活性化のため、地方自治体では起業を促進するための補助金制度を構築したり、起業支援施設をオープンしたりしています。しかし「起業したい」と思っても、周りに起業について相談できる相手が少ないことが課題です。また、経営について学ぶ機会も少なく、何から始めればよいかわからないという声もよく聞きます。

起業に利用できる補助金や融資制度については、そもそも「起業に使える補助金や融資制度がある」ということを知らない方は多いでしょう。知っていても、申請のために1人で事業計画を書き上げるのは至難の業です。

そこで、事業計画策定から財務支援(融資・補助金支援)まで幅広く支援できる、中小企業診断士が起業の支援の場で求められています。地方自治体が運営する起業支援施設では、経営相談窓口の相談員として中小企業診断士が配備されることが少なくありません。「副業から始めたい」という人から「IPOも目指した事業に育てたい」という人まで、幅広い起業相談に応じています。

また、起業について身近にとらえてもらう機会を設けるため、起業検討者向けのセミナー講師としても中小企業診断士の出番があります。特に女性を対象とした起業セミナーでは、女性の中小企業診断士が講師になることが多いでしょう。しかし、女性の診断士は男性と比べて人数が少なく、各地のセミナーへ引っ張りだこになっている女性診断士もいます。

起業を希望する人の相談に伴走し、事業計画策定の支援から、政の補助金や金融機関の融資、司法書士や社会保険労務士等の他専門家へ繋ぐハブとしての役割は、これからさらに求められるでしょう。

※参考:中小企業庁「令和元年度(2019年度)の小規模事業者の動向」

中小企業診断士が求められる場面は多いものの、認知度向上が課題

このように中小企業診断士が求められる場は、今後さらに増えると言えるでしょう。しかし、経営について誰に相談すれば良いか分からないという中小企業経営者からの声も、いまだに少なくありません。そのため、「経営の相談は国家資格者である中小企業診断士へ」という認知を高めることも、これから必要と思われます。

また、中小企業診断士の有資格者のうち47.3%(※)は、コンサルティング関係ではない民間企業等に勤務する「企業内診断士」です。コンサルティング会社や独立して中小企業のコンサルティングを行っている中小企業診断士は有資格者のうち約半数と、中小企業診断士の全員が中小企業支援に携わっているわけではないという実態があります。

川村 悟「企業内診断士の実態調査-現状と活躍の可能性について-」平成30年3月より

近年は副業・兼業解禁に伴い、コンサルティング関係ではない民間企業等に勤務する企業内診断士でも、中小企業支援に携わる方が増えています。多様化する中小企業の支援ニーズに対応するためには、中小企業診断士がもっと支援の現場に携わることが求められるでしょう。

また、中小企業診断士の認知度向上のためには、その役割や活動内容を中小企業診断士自らがもっと発信することも必要です。国や地方自治体の中小企業支援施策と中小企業を繋ぐ役割として、あるいは中小企業の経営の伴走者として、中小企業診断士が活躍できる機会は今後さらに増えそうです。