社会保険労務士試験に合格するための方法は、大きく予備校の活用と独学に分けられます。予備校は有用な学習方法の一つですが、独学であれば自身で学ぶために適したテキストなどの学習ツールを用意しなくてはいけません。そこで、予備校と独学でケースを分け、それぞれの学習ツールに焦点を当てて詳しく解説します。

予備校が提供可能な学習ツールとメリット

予備校の最大の強みの一つが、法改正情報のタイムリーな提供です。社会保険労務士試験が難関試験である理由に毎年多くの法改正があり、記憶の書き換えが必要である点が挙げられます。法改正情報は試験範囲となる法律について頻出項目とそうではない項目の傾向はあるものの、まったく目に触れないという選択は危険でしょう。そして何度も試験に挑戦しているベテラン受験生であっても、試験範囲となる法改正情報を独学で集めるのはさすがに無理があります。この点は、一定の費用を支出してでもプロの手を借りた方が良いでしょう。

科目によっては、法改正の量のわりに出題が少ないことも少ないということもあります。しかし、法改正の内容に触れたという安心感は、あって損するものではありません。また、年に一度しかない試験にも関わらず、試験範囲となる法改正内容に触れず試験に臨むという判断には疑問符がつきます。

教えるプロ

予備校の学習ツールのメリットに、受験指導のプロからの教えを受けることができる強みが挙げられます。これは筆者の肌感覚ですが、社会保険労務士試験は短期合格者もいるわりに、長期受験生も多いという印象です。長期受験生の傾向として、受験勉強の進め方自体に問題があることがあります。一例として、特定の科目は習熟しているものの、他の特定科目で記憶の定着が進んでいないような場合です。

予備校では単純に学習ツールとして授業を受けるだけでなく、勉強方法についても相談することができます。最終的なゴール(試験合格)は同じであっても、アプローチの仕方は生活スタイルによって多様でしょう。予備校の講師はこれまで色んな相談事例に対応しており、よほど特殊な生活スタイルでなければ類似の相談事例にも対応しているはず。ゴールまでの道筋が逸れる前に、軌道修正することが可能となります。自分にあった学習ツールを見つけることも大事ですが、まずは誤ったルートでゴールに向かわないという考え方も重要です。なお、社会保険労務士試験は科目毎に「頻出論点」があります。予備校では頻出ではない論点と時間の配分を変え、より早期に全科目を1周できるようサポートしてくれるでしょう。

そして、学習ツールとしてもっとも効果を発揮するのがテキストです。過去の出題傾向をリサーチしてテキストが毎年見直されており、かつ、科目毎にわかれて持ち運びにも適しています。市販のテキストには全科目が一緒になっていて、機能性に優れていないというデメリットが挙げられるでしょう。直前期であれば1日で全科目に触れることは難しくなくなりますが、勉強を開始した時期や全範囲が終わっていない時期なら、全科目一緒に収録されているテキストは目に触れない部分の方が多いはずです。

スケジューリングも含めて任せられる

予備校のメリットに、スケジューリングも任せられることがあります。試験日から逆算して予備校からその時期にタイムリーな教材が配布され、インプット・アウトプットしていくことが可能です。予備校には歴史があることから1人も合格者が出ていないということはほとんどありません。つまり毎年試験と戦っていることから、スケジューリングについてもプロだと言えるでしょう。

社会保険労務士試験は記憶の試験です。スケジューリングを誤ってしまうと記憶が薄らいでいる論点があり、思わぬ失点に繋がりかねません。試験日である8月の第4日曜日から逆算して、この時期に何を行うことがベターなのか。受験生全体にだけでなく、経験則から個別にも対応してくれます。

過去問の収録数

予備校では「論点別」の過去問が過去10年分以上は収録されており、頻出論点への対応力も強化できます。近年は過去問軽視の声も囁かれていますが、過去問は試験委員が出題した紛れもない実績であり、触れない理由がありません。しかし、丸暗記するという手法は適切ではないでしょう。それは、出題される法律条文が同じであっても、正誤判断の部分が変わることがあるからです。

筆者は学習ツールとしてもっとも重要なものが、過去問と言っても過言ではないと考えています。それは前述した通り、年に1度の本試験で出題された実績であり、かつ、出題委員も変わるから。出題委員もまた、出題時には過去の出題実績を少なからず確認することでしょう。

テキストの読み込み

過去問が重要であることを述べた矢先に、矛盾していると思われるかもしれません。しかし、過去問のみで合格することは難しいでしょう。当然、過去問が過去の出題実績であることは間違いありません。しかし毎年の法改正があるほか、頻出条文であるにも関わらず未だ問われていない角度からの出題も予想されるから。そもそも出題されていない論点について、過去問から学ぶことはできません。そこでテキストの読み込みを行い、頻出条文であるにも関わらず問われていない周辺知識などに注意して、目に焼き付けていくということが大切です。

公開模試の活用

予備校では、公開模試で試験本番の予行演習ができます。申し込んだ内容にもよりますが、受講するコースにオプションでついている場合もあるでしょう。仮についていない場合でも、公開模試は受験すべきです。その理由として、予行演習であったとしても時間配分の失敗等を経験せず、本試験に臨むのはあまりにもリスクが大きいことが挙げられます。

社会保険労務士試験は午前の選択式試験が80分、午後の択一式試験が210分となり長丁場の試験です。さらに8月の第4日曜日はまだ暑く、試験会場によっては冷房の効きにも差があるでしょう。かつ、午後の210分ノンストップの試験は、マラソンにも似た疲労感に苛まれます。そして、どの科目から説き始めるかも公開模試の時に試しておくべきです。最初から説く場合は労働基準法からとなりますが、労働基準法の特徴として労働判例からの出題も多く、お昼の休憩明けに判例を読み解いて正誤判断をするのは簡単ではありません。筆者はその考えから、最後の国民年金法から解いていました。これらもそれぞれ科目の習熟度に差があり、試行錯誤して自分の中の最善を見つけ出しておくことが、最短の合格に向けて有用です。

独学者の学習ツールとメリット

独学者のメリットは、自身でもっともわかりやすいであろうテキストを選び、自分のペースで学習をできる点です。例えば知人の紹介や著名な講師であることを理由に予備校を選択した場合、肝心なテキストがわかりづらいケースがあるでしょう。予備校も講義が終われば、あとは自身でテキストと問題集を繰り返し学習していくこととなります。テキストや問題集とは長い付き合いとなることから、自身にとって視覚的にもわかりやすいものであることが重要です。

また、予備校は(オンラインを前提にすると)次から次に講義が配信されます。そのため、仕事が繁忙期を迎える時期などは焦りに繋がってしまう受験生が少なくありません。それがプラスに作用すれば良いとですが、誰しもそうとは限らないでしょう。

予備校・独学を問わず必須の学習ツール

まずは択一式試験対策から

社会保険労務士試験合格のためには、選択肢式試験・択一式試験双方に基準点を上回らなければなりません。勉強方法が誤っていなければ、択一式試験は1,000時間到達前であっても基準点をクリアすることは難しくないでしょう。

多くの受験生を悩ませるのは、午前に行われる選択式試験の足切りです。しかし、まず択一式試験で基準点を下回っている状況では、そもそも記憶できていないことの表れと言えます。そのため、過去問集や市販のアプリ等を活用して、択一式試験で基準点を突破できるレベルに持っていくことが先決です。全員に当てはまるわけではありませんが、選択式試験の方が先に基準点を上回り、択一式試験の方が基準点を下回っている状況は勉強方法が適切でない可能性があり、場合によっては長期受験になってしまうこともあります。

選択式試験対策

試験日が近くなると、各予備校から選択式試験対策の講座が開校されます。しかし、そもそも選択式試験は空欄補充であることから、まったく同じ問題が空欄となる確率は多いとは言えません。よって、より広い範囲に対応する選択式試験対策はテキストの読み込みになります。

テキストの読み込みは地味な「作業」になりがちです。しかし筆者の実体験として、これが合否を分ける場合があります。その理由は、社会保険労務士試験が「以上、超、以下、未満」などの細かい論点も出題範囲となること。択一式試験では一部の例外はあるものの、相対的に正誤判断が可能でしょう。これに対して、選択式試験ではそれぞれの空欄に対してダミーの選択肢が設けられており、正確な記憶が求められます。そこで、結果を出していくには基本に立ち返り、テキストの読み込みが重要となるのです。

アプリ活用

近年はさまざまなアプリが開発され、社会保険労務士試験の試験対策に特化したアプリや受験対策サイトによる1日1問(過去に遡って解くことも可能)、問題を解けるサイトなどもあります。1日1問であっても1年間トータルすると300問以上解くことができ、積み重ねの効果はゼロとは言えません。

しかし、アプリは補助的な位置づけとして考え、原則はテキストに情報を一元化した方が効率的でしょう。これは、補足的な情報の保存先が複数になってしまうと保存先を探す時間に時間を費やしてしまい、そのような時間は本質的な勉強時間とは言えないからです。

最後に

学習ツールは多様です。しかし、軸となるツール(テキストおよび問題集)と補助的なツールを組み合わせたハイブリッドな学習が、早期合格に寄与する考え方だと言えるでしょう。ここでご紹介した内容を参考に、ご自身に合ったツールを選択して試験合格を目指してください。

[筆者プロフィール]
蓑田 真吾(みのだ しんご)
熊本県出身。社会保険労務士。みのだ社会保険労務士事務所代表。顧問先企業の労務顧問や社会保険における相談、手続きを行う。