約束事を忘れてしまい、家族や友人などに迷惑をかけてしまった経験はないでしょうか。あるいは仕事や勉強がなかなか覚えられないなど、記憶力ができないことで不便を感じている方は多いはずです。日常生活を含め、多くのシーンで求められる記憶力。今回は、そんな記憶力を高めるためのトレーニング方法をご紹介します。資格や受験などの勉強にも活用できます、ぜひ実践してみてください!

記憶力って鍛えられるの?

記憶力の高さは生まれたときから決まっている。あるいは、年齢と共に衰えていくのが当然だと考えている方は多いかもしれません。確かに子どもの頃から、記憶力には個人差が見られます。また、年齢と重ねることで忘れっぽさを感じることもあるものです。では、果たして記憶力を鍛えることはできないのでしょうか。

結論から言えば、誰でもトレーニングによって記憶力を高められる可能性があります。そのポイントとなるものの一つが、「シナプスの可塑性(かそせい)」の活発化です。これは脳にあるシナプスの数や大きさの変化を示すもので、情報の伝わりやすさに影響を与えるとのこと。この変化が柔軟になることによって、記憶力が高められるかもしれないのです。

そのほか、例えば脳由来神経栄養因子「BDNF」を増やすことも記憶力アップに繋がると言われています。国内外で研究が行われており、このBDNFは運動によって分泌が促進。物事が脳に定着しやすくなり、記憶力アップに繋がるようです。さらにこのBDNFも、シナプスの活性促進に関わるとされています。こうした観点からも、記憶力は年齢に関わらずだれでも鍛えられる可能性はあると言えるでしょう。

資格や受験勉強にも使える!記憶力UPに向けた6つのトレーニング方法

それでは、実際に記憶力を鍛えるためのトレーニングをご紹介しましょう。ここでは、具体的に5つの方法を取り上げました。日常生活はもちろん、資格試験や受験勉強にも使える方法です。

記憶力を鍛えるトレーニング①語呂合わせ法

学生時代、歴史年号などを“語呂合わせ”で覚えたことのある方は多いはず。例えば794年の平安京遷都を「な(7)く(9)よ(4)ウグイス平安京」や、1192年の鎌倉幕府成立を「い(1)い(1)く(9)に(2)つくろう鎌倉幕府」(現在は1185年になっています)など。あるいは数学で、ルート計算を以下のように言葉で覚えた方は多いのではないでしょうか。

  • √2=1.41421356「一夜一夜に人見頃(ひとよひとよにひとみごろ)」
  • √3=1.7320508「人並みにおごれや(ひとなみにおごれや)」
  • √5=2.2360679「富士山麓オーム鳴く」(ふじさんろくおーむなく)

また、化学の周期律表を「水平リーベ僕の船…(H水素・Heヘリウム・Liリチウム・Beベリリウム・Bホウ素・C炭素・N窒素・O酸素・Fフッ素・Neネオン)」と覚えた方もいるはず。こうした語呂合わせも、実はとても有効な記憶力アップの手段です。他にもよく考えてみると、数字は色んな言葉にあてはめられるもの。試しに電話番号や住所、車のナンバーなど、身近な数字で語呂合わせを作ってみましょう。

語呂合わせは、何も数字だけに当てはまるものではありません。例えば英語の発音を分けて日本語に置き換えれば、以下のように覚えやすくなります。

  • 「overflow」(あふれる)=「湯がオーバーして風呂があふれる」
  • 「kennel」(犬小屋)=「ケン(犬)が寝る場所は犬小屋」
  • 「attach」(貼り付ける)=「あ、タッチ!シールを貼り付けた」
  • 「Progress」(前進)=「プロを目指してグレずに前進」

何か覚えにくいものがあれば、ぜひ語呂合わせが作れないか考えてみてください。難しい言葉や数字の羅列も、自然と記憶に残しやすくなるでしょう。

記憶力を鍛えるトレーニング②連想結合法

覚えたい複数の単語を、関連づけながら連想させて覚える方法です。一見すると関連しない単語でも、頭の中でイメージしやすいよう流れを作っていきます。具体的な例を挙げますので、参考にしながら覚えたい単語を同じように繋げてみましょう。

<例>

◎覚えたい単語

猫、車、雨、雑誌、ヤドカリ、ナイフ、ケーキ、イタリアン

◎関連付け

  • 「猫」が「車」の前を通った
  • その「車」に乗って出かけると「雨」が降り始めた
  • 「雨」が窓から入って、助手席にある「雑誌」が濡れる
  • 「雑誌」の下から「ヤドカリ」が出てきた
  • 「ヤドカリ」が「ナイフ」を持っている
  • 「ナイフ」を使って「ケーキ」を切り分けた
  • すると「ケーキ」の中には「イタリアン」料理が入っていた

例えば「ヤドカリがナイフを持っている」は、当然ながら現実であり得ることではないでしょう。しかし連想結合法は、あくまで流れの中で単語をイメージとして覚えるための方法。頭の中でイメージが作れれば、どんな内容でも構いません。

試しに身近にあるものを複数ピックアップして、連想結合法を行ってみてください。ポイントとなるのは、2つずつの単語を“しりとり”のように繋げていくこと。難しく考えず、繰り返しトレーニングすることで自然とイメージを作りやすくなります。

記憶力を鍛えるトレーニング③瞑想法

記憶力を高めるトレーニングとして注目されているものに、瞑想法(マインドフルネス)が挙げられます。これは身体と気持ちを落ち着かせた状態で、自分自身と向き合うというもの。先入観などの雑念を取り払うことで、集中力が高まるとされます。この状態で物事に向き合うと、記憶力が高まるというわけです。具体的な瞑想法の流れは以下の通りですので、まずは実践してみてください。

  • 雑音などのない静かな場所に身を置く
  • ゆっくり深く深呼吸して呼吸を整える
  • 目を閉じて口ではなく鼻呼吸に切り替える
  • 呼吸の状態、そしてこれに伴う身体の動きに意識を集中させる

最初は短い時間でも構いません。あらかじめ時間を決めて瞑想を行い、終わったら静かに目を開きます。もちろん瞑想中、頭の中に雑念が浮かんでくることがあるでしょう。そうした際は、その状態そのものを受け入れ、改めて意識を呼吸へと向けていってください。

記憶力を鍛えるトレーニング④1日の始まりに軽い有酸素運動を取り入れる

ウォーキングやジョギングのような有酸素運動を行うと、脳由来神経栄養因子である「BDNF」の分泌が促進されると言われています。このBDNFが増えると認知機能が向上し、結果として記憶力アップが期待できるのです。そのため、記憶力を高めるためには日常に有酸素運動を取り入れましょう。

有酸素運動は、できれば1日の始まりに行いましょう。BDNFが増えた状態で1日をスタートすれば、例えばその日に勉強した内容が覚えやすくなる可能性が高いためです。なお、増えたBDNFは時間の経過とともに元の状態に戻ってしまいます。そのため、有酸素運動は定期的に行うと良いでしょう。できれば毎日、朝の習慣として取り入れるのが良さそうです。

有酸素運動と言っても、息が上がって疲れ切るほどの運動は不要です。それでは、むしろ眠くなって物事に集中できなくなってしまいます。例えば10分、ゆっくりジョギングしたり散歩したり。これだけでも、有酸素運動による記憶力アップの効果は期待できます。あるいは運動時間を確保できないなら、歩きながら覚えたい資料や参考書などを読み込むのでも良いでしょう。

記憶力を鍛えるトレーニング⑤複数の感覚機能を一緒に使って覚える

人間は何かを感知するための感覚機能として、「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」といういわゆる“五感”を備えています。記憶力をアップさせるには、これら五感をできるだけ一緒に使いましょう。

例えば、人の名前がなかなか覚えられないという方は多いはず。顔は分かるのに名前が出てこない、あるいは名前は聞き覚えがあるけど顔が浮かばない…など。その理由は、視覚から入ってくる“顔”という情報と、聴覚によって声で聞いた“名前”という情報が結びついていないからかもしれません。そのため、何度か相手の顔をしっかり見ながら、名前を呼んでみましょう。そうすれば、目に映っている人物の顔と耳に入ってきた相手の名前(=自分の声)とが結びつき、記憶に残りやすくなるはずです。

あるいは勉強する際、ただ練習問題を解くだけではなく問題と解答を読んでみる。また、英単語帳を見ながら、付属したCDで発音を確認したり自ら発声したりするのも良いでしょう。数学で図形の展開図が理解できないとき、模型を手に取って触りながら形状を確認するといったことも有効です。

イメージや音、文字、あるいは感触など。同じものでも複数の感覚を通じて情報が入ってくることで、記憶に定着しやすくなります。例えば勉強で覚えにくいものがあれば、まだ使っていない感覚機能がないか確認してみましょう。五感を総動員することで記憶力が高まり、成績アップや試験合格に大きく近づくかもしれません。

記憶力を鍛えるトレーニング⑥ビジュアル化して整理しながら覚える

例えば長く書かれた文章は、読んでいるうちに頭から情報が抜けてしまったり、何について書かれているのか混乱してしまったりすることがあります。これは、頭に入ってきた情報を整理しきれなくなっているから。そうした際は、図表やイラストなどを用いてビジュアル化してみましょう。そうするとビジュアル化する過程で必要ない情報がそぎ落とされ、重要な部分だけが整理して覚えやすくなります。また、文章を最初から読み直すより、ビジュアル化されたものがあれば後から確認することも容易です。

類似した方法として、箇条書きの活用も挙げられます。図表やイラストまではいかなくとも、例えば以下のように文章を1つ1つの要素に分けて並べてみましょう。

<Before>

簿記検定には「日商簿記」「全経簿記」「全商簿記」の3種類があり、日商簿記は日本商工会議所および各地商工会議所が主宰、全経簿記は全国経理教育協会が主宰、そして全商簿記は全国商業高等学校協会が主宰する検定試験です。

<After>

簿記検定の種類と各主宰者は以下の通り。

  • 日商簿記:日本商工会議所および各地商工会議所
  • 全経簿記:全国経理教育協会
  • 全商簿記:全国商業高等学校協会

これだけで情報が整理され、覚えるべきことが明確になるはず。なお、以下のように図表化することも可能です。

検定名主宰者
日商簿記日本商工会議所、各地商工会議所
全経簿記全国経理教育協会
全商簿記全国商業高等学校協会

どのようにビジュアル化するのが最適かは、情報量と内容に応じて検討しましょう。

まとめ

物事が覚えられず、「自分は記憶力がないから」と諦めてしまっている方。それが、実は非常にもったいないことだとお分かりいただけたのではないでしょうか。記憶力は、誰でも適切なトレーニングを繰り返すことで鍛えることができます。ここでご紹介した中でも、恐らく取り組んだことのないものは多いはずです。しかし、いずれも少しの工夫で実践できるものばかり。記憶力アップは、そこまで難しいものではありません。

記憶力がアップすれば、勉強の効率も一気に高まります。例えば手が届かないと思っていた資格取得も、記憶力のトレーニングで現実味を帯びてくるかもしれません。特に記憶力が高まったことを実感できると自分に自信を持ちやすくなり、「もっと勉強したい」という意欲に繋がっていくでしょう。もちろん記憶力が高まることは、日常生活でも大いに役立ちます。まずは1つからでも、ぜひご紹介したトレーニングに取り組んでみてください。繰り返し継続していけば、早い段階で効果を実感できるはずです。

▼参考

https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/life/synapticplasticity/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2010/0/2010_0_AbPI1007/_article/-char/ja/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/40/2/40_KJ00008636887/_pdf