社会保険労務士を目指して、ただ漠然と勉強していても、なかなかモチベーションは上がりません。社会保険労務士の資格取得を目指すなら、合格後にどんな活躍の場が待っているのかをイメージしてみましょう。実際に社会保険労務士として働いている自分を思い描くと、勉強のやる気も湧き上がってくるはずです。

しかし中には、実際の仕事内容をいまいち理解できていないという人がいるかもしれません。そこで今回、現役社労士として活躍する岩元洋一さんに、現在の業務内容などについて詳しくお話を伺いました。仕事内容が理解できれば、勉強している内容の一つ一つが何に活かせるのかも明確になります。

お話を伺った方:
岩元 洋一(いわもと よういち)さん


鹿児島県出身。社会保険労務士行政書士試験保有。社労士事務所や企業労務部等での勤務経験を経て、2009年1月に独立。「社会保険労務士行政書士岩元事務所」を開業し、主に顧問先企業の社会保険手続きや給与計算等を行う。


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Q:社会保険労務士の具体的な仕事内容について教えてください

社会保険労務士の仕事は多岐にわたりますが、主には大きくわけて「手続き代行業務」「帳簿書類の作成」「人事労務管理に関するコンサルティング」の3つがあります。いずれも、会社にとっては欠かせない役目です。

Q:まず「手続き代行業務」の業務内容や、果たすべき使命について教えてください

ご依頼いただいた事業者様(法人又は個人事業主)の、社会保険・労働保険の手続きを代行する仕事です。従業員が入社した、あるいは退職したときには、社会保険や雇用保険の加入・喪失手続きを行わなくてはいけません。また、社会保険の手続きでは年に1回、社会保険料の見直しのために算定基礎届の手続きが必要です。労働保険の手続きでも年に1回、労働保険料の申告手続きが求められます。

この他にも、従業員の給料が変更になった場合の月額変更届、あるいは従業員が産休・育休の際にも手続きが必要です。仕事中にケガをすれば労災保険の手続きが必要になりますので、その書類作成も行います。

私が関わっている会社は従業員1名から100名まで規模は多様ですが、もっとも多いのは従業員10人ほどの会社です。業種は建設業や飲食業、製造業、コンサル業、IT業、介護事業など、さまざまな会社からご依頼をいただいています。少人数の会社であれば、手続きする専門の担当者がいないので外部に依頼したいというご相談が多いですね。

従業員に関する手続きでは、入社から退職するまで色んな手続きが発生します。家族を持ったときの扶養異動手続き、出産や病気などをしたときに行う健康保険給付の手続き、業務上のケガの労災の手続きなど。これらの煩雑な手続きを「漏れなく迅速に正確に行う」ことで、企業と働く労働者が安心して働くことができる環境作りを手伝いする。これが、この業務を通じた社会保険労務士の使命ではないでしょうか。

法律で定められた手続きは多岐にわたります。中には何の手続きをすればいいのか知らなかったり、手続きしていても間違っていたりすることが少なくありません。また、中小企業では社長自身が手続きしており、本業が忙しくて放置しているケースも見受けられます。

適切な手続きを行えていないと、過去に遡っての是正が必要になったり、給付を受けられなかったりと不利益が生じてしまうこともあります。あるいは、従業員からも不信感を持たれることに繋がりかねません。そのため、できれば社会保険労務士に依頼した方が無難です。

Q:それでは、「帳簿書類の作成」についても具体的に教えてください

労働基準法では、法定帳簿の整備が義務付けられています。法定帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」のことで、法定三帳簿と呼ばれるもの。この法定三帳簿以外にも労働条件通知書や労使協定書、災害補償に関する書類、定期健康診断の結果など、会社が保存しなければならない帳簿の調製を行います。それぞれの書類には、次のように法律で定められた項目を記載する必要があり、記入漏れがないように作成しなくてはいけません。

<労働者名簿>
労働者の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職の年月日及びその理由や原因

<賃金台帳>
労働者の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数、基本給や手当等の種類と額、控除項目と額

<出勤簿>
労働日数、労働時間、日毎の始業・終業時刻の記録

<労働条件通知書>
労働契約の期間、就業の場所及び従事する業務、労働時間や休日・休暇に関する事項(残業の有無、休憩時間、休日休暇等)、賃金に関する事項(賃金の決定、計算、支払い方法、締め日と支給日、昇給)、退職に関する事項、その他の必要な事項

とはいえ中小企業において、各帳簿を正しく調製している会社は少ないかもしれません。しかし労働者名簿や賃金台帳などの作成及び保存義務に違反した場合には、労働基準法の規定により、30万円以下の罰金に処するとされています。また、助成金を申請には法定三帳簿の提出が必要なことが多いので、正しく作成保存しておかいないと助成金の申請を行うことができません。

法定帳簿を整備することは雇用管理の基本となります。例えば労働時間を管理することで、長時間労働を是正し、労働者の健康を維持して過労死などを抑止することになるでしょう。労働環境を整えることをサポートするのが、この業務における社会保険労務士の役割だと考えています。

Q:人事労務管理に関するコンサルティング業務では、どのような仕事を行われているのでしょうか?

会社のルールである就業規則の作成や改定、従業員の採用、解雇等に伴う労働問題、長時間労働の改善、パワハラ・セクラハの対策など、人事・労務全般についてのアドバイスを行います。特に私の場合、就業規則を作成したいという相談が多いですね。労働基準法では10人以上の労働者を雇用する場合、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なくてはいけません。しかし昨今は従業員が数人でも、会社のルールとして就業規則を作成したい企業は増えていると思います。経営者としては従業員が問題行動を起こしたときのために、まず就業規則を作成したいと考えるのでしょう。そうした背景から、社会保険労務士にご相談いただくケースが多く見られます。

ただしコロナ禍では、少し相談内容にも変化が出てきました。昨年は緊急事態宣言に伴って休業する会社も多く、雇用調整助成金の申請の相談が増加。雇用調整助成金の申請では、要件や様式が毎日のように変わって情報を追うのが大変でした。しかし、全国の社会保険労務士の間で情報交換を行い、対応しています。同じ社会保険労務士でも得意分野が異なりますので、こうした社会保険労務士との情報交換は今後も重要になってくるでしょう。テレワークの導入を検討する会社も増えていますが、テレワークを導入していても規程を整備していないケースは少なくありません。そのため、テレワーク規程の作成についても相談も増加傾向にあります。

現在はインターネットで調べると、たくさんの情報を知ることができるでしょう。しかし中には内容が古かったり、間違っていたりするものも少なくありません。知らないうちに、誤った情報を信じてしまっていることがあるのです。また、労働問題は単純なものばかりでなく、実に多様なケースがあります。そのため、さまざまな角度から検討が必要です。こういった場面でも、社会保険労務士の経験や知識はお役に立てるのではないでしょうか。

就業環境が変化していく中では、初めて経験するような状況も増えているはずです。経営者をはじめとして、頭を悩ませている方は多いことでしょう。社会保険労務士も他の社会保険労務士はもちろん、弁護士や税理士など他の士業とも連携し対応していくことが必要になっていくと思います。さまざまなネットワークを活用し、顧客にとって最適な対応を提供していくことが必要です。

Q:社会保険労務士として働くうえで、実際にどのようなやり甲斐を感じていますか?

例えば手続き業務と言っても、単純なものからレアケースで複雑な手続きまで実にさまざまです。そのため、書類作成を間違いなく処理できたときは達成感がありますね。また、従業員との労務トラブルに対応することもあるのですが、経営者と悩みながらも解決に導くことができたときは、とても感謝されて大きな遣り甲斐を感じられる瞬間です。

私は特定社会保険労務士でもありますので、個別労働関係紛争を「あっせん」という手続きにより、裁判によらない円満解決を実現することも可能です。まだ実際に特定社会保険労務士として紛争解決手続代理業務をしたことはありませんが、特定社会保険労務士の試験で学んだ知識を活かして、労務トラブルを未然に防ぐお手伝いができることも遣り甲斐のあることだと思っています。

未来をイメージして社会保険労務士の資格取得を目指そう

社会保険労務士の仕事は多岐にわたりますが、主に挙げられるのが「手続き代行業務」「帳簿書類の作成」「人事労務管理に関するコンサルティング」の3つ。いずれも企業にとって欠かせないものであり、社会保険労務士の専門的知識が生かされる業務です。企業の中には経営者が自分自身で行っているケースが見られるものの、誤りがあれば取り返しのつかない問題につながることも。岩元さんは全ての業務に遣り甲斐と使命感を持ち、その業務を通じて会社の役に立てていることに喜びを感じているようです。

また、特定社会保険労務士の資格を取得すれば、さらに仕事の幅が広がるとのこと。社会保険労務士の資格勉強に取り組まれている方も、将来的なキャリアの一つとして視野に入れてみると良いかもしれません。社会保険労務士の資格を取得して、実際に自分がどのような仕事に従事するのか。その未来をイメージすれば、きっと勉強もはかどることでしょう。社会保険労務士の仕事内容をしっかり理解し、資格取得を目指してください。

<取材・執筆:三河 賢文>