「士業」の中でも注目を集めている資格の一つとして、社会保険労務士が挙げられます。コロナ禍によって時代の先行きや企業経営が不透明になり、不安感に苛まれる方が多く見受けられるようになりました。社会保険労務士は不況に強い資格であり、不況下であっても一定のニーズがあります。一例として、企業の経営を助ける助成金の申請代行などは専門的な知識が必要であり、社会保険労務士の活躍できる舞台の一つです。

社会保険労務士になるには、年に1度開催される試験に合格する必要があります。今回は筆者の経験をもとに、社会保険労務士試験に合格できる人の特徴について考察します。

合格できる人の特徴1|継続できる人

社会保険労務士試験は、年に1度しか開催されない国家試験です。そのため、合格に向けて試験開催日に照準を合わせて仕上げていく必要があり、多くの場合は長丁場の戦いとなるでしょう。そもそも継続できる習慣がない場合、途中で最低合格ラインから脱落してしまうケースも散見されます。

理論上、勉強を継続する限りは試験合格のチャンスがあると言えるでしょう。しかし諦めて気持ちが切れたままでは、いくら勉強を継続しても合格できるほど簡単な試験ではありません。また、法律数だけでも労働基準法から始まり、最後の国民年金法まで相当な数の条文があります。そして難関科目と位置付けられる一般常識については法律や統計、白書など試験範囲は膨大。一朝一夕に身に着けられるものではありませんので、日頃から継続して勉強していくことが極めて重要です。

合格できる人の特徴2|途中で修正できる勇気がある人

社会保険労務士試験は試験範囲の広さを鑑みても、多くの場合で勉強が長丁場の戦いとなります。その間、かけた労力のわりに成果が表れていないと感じるときもあるでしょう。そのような際は、勉強方法等が適切でない場合があります。社会保険労務士試験の受験生は真面目な受験生が多く、今までのやり方に固執してしまうことが少なくありません。成果が表れないということは単に調子の問題だけでなく、その時期に相応しい勉強法ではない場合も考えられるでしょう。目的は試験に合格することであり、同じやり方を続けることが目的ではありません。場合によっては、勉強方法を軌道修正するという勇気も必要です。

一例として「合格体験記」の活用が挙げられます。合格体験記を参考にする際の注意点が、自身のライフスタイルに近い合格体験記を読むということ。早期合格者という理由のみで参考にしようとしても無理が生じてしまい、体調を崩すようでは本末転倒です。

また、昨今はSNSの発達により多くの情報で溢れています。中には有用な情報もありますが、そうではない情報も少なくありません。情報を参考にする場合は峻別し、自身に参考となる情報のみを参考にすべきでしょう。本来、情報は補足として位置づけておき、あまりにも情報収集に時間をかけてしまうのは問題です。

合格できる人の特徴3|逆算できる人

社会保険労務士試験は、毎年8月の第4日曜日に開催されます。その日に記憶のピークを持ってくることが試験攻略の秘訣と言えるでしょう。そのため、以下のようなことを事前に考えておくことが大切です。

  • 試験当日に何を持って行くか
  • 試験前日に何の教材を使用するか
  • 試験1週間前、8月に入ってからのスケジュール
  • 模擬試験を何回受けるか
  • どの時期にどのあたりまで勉強を進めておくか など

しかしこれらは絶対ではなく、ある程度融通をきかせることは問題ありません。また、長期的なスケジュール、週単位のスケジュールもおおまかに決めておくことで、迷う時間を減らすことができるでしょう。スタート地点から積み上げ式で勉強していくスタイルでも構いませんが、誤った方向に進んでいても気づかないケースがあります。特にこれからは人との接触も少なくなり、周囲から指摘してもらえる機会も減ってくることから、ゴールからの逆算思考は重要ではないでしょうか。

模擬試験については、あまり多く受けすぎてしまうのも問題です。なぜなら模擬試験では、試験で問われるとは考えにくい論点も出題されるため。そのような問題は理解しようとすると多くの時間を当てることとなり、直前期には大きなダメージとなります。

合格できる人の特徴3|素直な人

社会保険労務士試験は記憶の試験であり、記憶の仕方にも(人によって手段は異なるものの)コツがあります。そして重要なのが、広い試験範囲の中には覚えなくても良い論点が複数あるということ。当然、試験に臨むにあたっては、より広く記憶しているに越したことはありません。しかし、あまりにも手を広げすぎてしまったために、重要な論点を落としてしまっては本末転倒です。

そもそも、膨大な試験範囲のすべてを記憶するのは不可能であり、非効率と言わざるを得ません。記憶すべきポイントは、予備校生であれば講師からレクチャーがありますので、そこは割り切って勉強すべきでしょう。筆者は予備校の講師からアドバイスを受けた場合、一度は聞いてみることが重要だと感じています。予備校講師からのアドバイスは受験指導のプロの助言であり、受験生のこれまで培った経験値とは比較になりません。記憶すべきポイントなどは個人差が生じ得る勉強方法と違い、過去の揺るぎない歴史であり参考にする価値は大きいでしょう。反対に勉強方法については、生活スタイル等の違いによっても変わってくるのが普通です。前提条件が違っていないなどを確認し、参考可能な部分のみ切り取って参考にするということでも良いでしょう。自身の本試験での失敗や後悔を先人の知恵によって回避できるのであれば、大いに参考にすべきと言えます。

合格できる人の特徴4|軸がある人

社会保険労務士試験合格までの道のりは、平坦ではないことが多いでしょう。困難に直面したときに自分の支えとなるのが、恐らく次のような問に答えられるかどうかです。

「自分はなぜこの試験に合格しようと日々勉強しているのか」

「自分が合格することによってどのような人を助けることができるのか」

軸がぶれると少しの妥協がいつの日か恒常的な妥協となり、目標達成とはかけ離れた過ごし方になってしまうこともあります。公開模試などで点数が伸びない、前日に覚えたはずの論点が記憶から抜けている、選択式試験で足切りにあったときなどは、大きな不安感に苛まれるでしょう。しかし、社会保険労務士であればそれは誰もが通る道であり、不安感に苛まれるということは行動が伴っていることの証でもあります。「これだけ努力したのだから必ず合格する」と強く念じるほど、不安感は強く感じることでしょう。

そのような不安感に苛まれたときは、なぜ自分が社会保険労務士を志したのか、また自身が社会保険労務士になることでどのような人を助けられるのかを考えることで、苦難にも立ち向かえるはずです。むしろ苦労すらせず試験に合格したとしても、人の役に立つことは難しいでしょう。

合格できる人の特徴5|自己管理能力に長けている人

受験生活では、友人や集団の力を借りてアウトプットする機会もあることでしょう。しかし、試験に合格するかしないかが決まる瞬間は、一人で問題に向き合います。また、試験直前期ともなると受けた授業は同じであっても、習熟度や弱点まで同じというケースは少ないでしょう。

社会保険労務士試験は記憶の試験であり、試験実施月である8月の過ごし方は極めて重要な意味を持ちます。そこで自身を律し、自身を客観視しながら本質的な勉強をできる受験生は、社会保険労務士試験に対して強いと言えるでしょう。また、直前期に限らず自己を律し、粛々と受験生活を送ることができることは、合格を勝ち取ることに関してプラスに働くはずです。

合格できる人の特徴6|諦めない人

社会保険労務士試験は、試験当日の最後まで何が起こるか分かりません。難関試験に分類される理由の1つに挙げられるのが、1科目でも基準点を下回ると原則として不合格となること。しかし、救済制度として合格基準点の引き下げが行われる場合がありますが、初めから救済制度での合格を目指しながら勉強するのはリスクが大きすぎます。

そして、本試験は必ず見たこともない問題が毎年出題されるでしょう。初見の問題は受験生の誰もが焦りを感じるもの。しかし、初見の問題は合格を左右しないことも多く、その周辺の問題で落としてはいけない論点というものがあります。試験の途中で諦めてしまうと知恵で出てこなくなり、閃きもありません。試験自体は一定の時間帯であれば途中退室できますが、万が一にもケアレスミスで失点し、それが起因して不合格となることも考えられるでしょう。そうなれば、まったく見当もつかない論点でもない限り、最後まで諦めず問題と向き合う姿勢が重要と言えます。そのため、試験時間中は最後の1分まで問題と向き合い、努力の成果を出し尽くすというスタンスが重要です。

また、試験時間中でなくて受験生活期間中も諦めない姿勢が求められます。いくら点数が伸びなくて、悲観したり諦めたりする必要はなりません。勝負は8月の第4日曜日であり、その途中の期間での点数に一喜一憂するのは、むしろ合格を遠ざけることさえあるでしょう。

まとめ

筆者の主観をもとに、社会保険労務士試験に合格できる人の特徴を挙げました。しかし、本試験では何が起こるかわかりません。公開模試で複数回好成績をおさめていても、たまたま記憶が薄らいだ論点が出題され、残念ながら不合格となってしまうこともあるでしょう。しかし挑戦を諦めない限り、合格を勝ち取る可能性が消えることはありません。

また、かけた時間のわりに成果が表れないという場合には、勉強の仕方に問題がある可能性があります。そのようなときは慣れ親しんだ勉強法であっても、軌道修正する勇気を持って試験に向き合ってください。

[筆者プロフィール]
蓑田 真吾(みのだ しんご)
熊本県出身。社会保険労務士。みのだ社会保険労務士事務所代表。顧問先企業の労務顧問や社会保険における相談、手続きを行う。