行政書士に限らず、誰しも仕事にはやりがいを持って働きたいもの。やりがいは、そのまま仕事のモチベーションや誇りに繋がります。しかし、まだ行政書士の仕事に従事していない段階では、「どんなことにやりがいを持てるだろうか」とイメージできないかもしれません。そこで今回、現役の行政書士3名にアンケート調査を行いました。実際にどんなことにやりがいを感じているのか、ぜひ参考にしてください。

①行政書士は人に役に立てる仕事

行政書士としてやりがいを感じるのは、自分の仕事が「人の役に立った」と実感するときです。現在は、インターネットなどで手軽に情報を手に入れることができます。そのため、申請手続きはもちろん、内容証明や遺産分割協議書、離婚協議などの文書の作成まで、多くの方がかなりの知識を入手できるでしょう。ただ、公開されている情報はあくまでも基本であり、個別の事情に合わせたものではありません。インターネットで公開されているものをそのまま自分に置き換えて申請を行ったり文書を作成したりすれば、かえって時間がかかることがあります。また、内容によっては、思いがけないトラブルに発展することもあるでしょう。このような事態を見越して、行政書士に依頼をされる方は少なくありません。仕事が終わった後に「やはりプロに任せて良かった」と感謝の声を頂くとき、もっともやりがいを感じます。

行政書士という仕事は、決して前に出ていく仕事ではありません。依頼者を陰で支援する仕事がほとんどです。例えば、借金の返済を求める依頼者が相談に来たとします。もし弁護士であれば、依頼人の代理人として相手方と直接交渉を行うことになるでしょう。しかし、同じことを行政書士が行うことはできません。弁護士法で、弁護士以外が代理人となってトラブルに関する交渉を行うことは禁止されているからです。もし弁護士以外の人が依頼を受けてこのような行為を行えば、「非弁行為」となりペナルティが科されます。

一方、行政書士は依頼者から事情を聴いたうえで、対応に関するアドバイスを行ったり、内容証明の作成をアドバイスしたりすることはできます。また、内容証明の作成代理人として、依頼者の意向を記載した書面を相手方に送ることも可能です。このように、行政書士は弁護士のように相手に対して全面的に対峙することはありませんが、依頼者を下支えする存在になることはできます。また、さまざまな申請手続きや株式会社の設立業務についても、依頼者がこれから何かを始めるサポートという意味で、行政書士は依頼を支援できる立場にあるわけです。

例えば2020年12月、ある一般社団法人の事務局長から連絡がありました。こちらは、私が10年ほど前に「移行認可申請」の手続きを担当した法人です。一般社団・財団法人に認可されると、毎年「公益目的支出計画」の実施報告書を行政庁に提出しなければなりません。この計画は、行政庁の認可を受けた時点で年数が決められているのです。しかし何年か報告していくうちに、当初の年数で終了することが難しくなる場合があります。計画より早く終了する分は問題ありませんが、延長する場合には、あらかじめ行政庁に「変更認可申請」を行い、計画延長の認可を得なければなりません。

事務局長の話では、「今年度(令和3年3月末)で計画が終了する予定のものが、少なくとも4~5年延長することになりそうだ」とのことでした。しかも、毎年の報告を担当していた公認会計士が6月に急に辞めたと言うのです。通常、変更認可を申請して、行政庁から認可されるまでは3~4ヶ月かかります。もし令和3年3月末までに計画の延長が認められないと、法令違反となり、法人は行政庁から指導を受けることになります。私は早速法人を訪問し、今後の流れを打ち合わせたうえで、すぐ申請書作成に着手。そして、ぎりぎりの日程である12月15日に行政庁へ「変更認可申請書」を提出することができました。

その後、行政庁の担当者から、申請書に対する質問が幾つも送られてきましたが、その際にも私は法人を訪問。担当者と電話でやり取りしながら回答の原案を作ったうえで、事務局長に了承を得て行政庁の担当者にメールで送り、対応しました。結局は3月23日に認可が下りて無事に計画の延長が認められ、事務局長からは「先生のお陰で、無事に認可がおりました」と感謝の言葉をいただきました。

このように、依頼者からの要望に応えることができ、感謝されたときには、行政書士としてのやりがいを感じます。

②幅広い業務を通じてクライアントから感謝される仕事

行政書士は業務の幅がとても広いため、その中から自分の興味や資質、ライフスタイルに合わせて自分の専門分野を定め、極めていくことが可能です。行政書士としての自分の幅を広げるために努力を重ねることは、とてもやりがいがあります。また、私は行政書士として仕事をする前は、企業の法務部門で働いていました。企業での経験を活かし、行政書士として契約書作成及び契約書リスク診断の仕事に携わっています。クライアントは中小企業が多く、もっとも大きなやりがいは「お客様から感謝されること」です。例えば「無事に契約を締結し、ビジネスを順調に進められました。ありがとうございました」などと感謝の言葉を頂くと、お役の立てたことにやりがいを感じています。

大企業で働いていると、組織の中の歯車の一つという感じがあり、直接自分の仕事が世の中の役に立っていると感じられないことが少なくありません。行政書士としてクライアントから直接仕事の依頼を受け、無事に仕事が完了したときに感謝の言葉を頂くことで、「直接自分の仕事が世の中の役に立っている」という実感を得られます。また、開業行政書士は確かな実務能力と営業努力次第で、大きく収益を上げることが可能。己の努力と頑張り次第で大きく成功できる職業であるという点は、行政書士としてやりがいを感じるところです。

私は行政書士として、契約書作成および契約書リスク診断の仕事に携わっています。例えば以下のような場合、契約書の作成が必要です。

・新規の取引先との事業を始めたい
・新しい技術や商品を自社のビジネスに取り入れたい
・他社との新規事業を始めるために技術やノウハウの協力を求められている

しかし契約書作成や契約書にサインする際、「この内容で大丈夫だろうか?」「新たな技術が知らないうちに他社に使われてしまうのでは?」「自分が相手から利益を不当に搾取されて損なビジネスになるのでは?」など、多くの中小企業がさまざまな悩みや不安を抱えています。しかし多くの中小企業では、大企業のように専門の法務担当者がいません。私は「中小企業の法務部門として、中小企業の方々の悩みを解決したい」という想いで、中小企業の方々が持つ素晴らしい技術やノウハウをお守りするためのお手伝いをさせて頂いています。実際、クライアントである中小企業の方々からは「契約書作成の悩みや問題が解決しました。ありがとうございました」など、たくさん感謝の言葉をいただいています。

③独立して十分な時間と収入を確保

お客様からご相談を頂き、それが解決に至った際に感謝の言葉を受けることは、行政書士として大きなやりがいです。ただ、私がもう一つ行政書士になって良かったと思っているのが、現在の働き方にあります。いわゆるワークライフバランスを保ち、しっかり仕事をこなしながらも、プライベートを充実させられていることに、大きなやりがいを感じています。

私は以前、一般企業に会社員として勤務していました。労働環境は決して良いものではなく、家に帰るのはいつも夜遅く。最初のうちは「仕事はそういうものだ」と割り切っていたのですが、転機となったのが結婚です。共働きのため、結婚したものの、あまり夫婦の時間というものが持てずにいました。そんな中でも子供を授かり、出産こそ立ち会わせてもらえたものの、育休など取得できる雰囲気ではありません。今では男性の育休取得が推奨されていますが、当時それは普通ではなかったのです。

妻は子育てのため、一時は育休という形を取っていましたが、両立が難しいということで退職。しかし私の労働環境は変わらないので、子育てはほぼ全て任せきりです。仕事から帰宅すれば子供は寝ていますし、土日は休みですが、いつも疲れている感じ。これが自分、あるいは家族にとって良いことなのか悩み、「これではいけない」と思ったのです。

それから勉強して行政書士の資格を取得。現在は事務所を構えて、主に起業・独立や経営相談などに当たっています。時期によって忙しいことはありますが、仕事の中身や量、あるいは働く時間を自分でコントロールできる環境です。また、事務所を立ち上げた当初は苦しい時期もありましたが、現在は収入も会社員の頃を超えています。私は稼ぎより家族との時間を大切にしたいタイプなので、無理に多くの収入を目指そうとは思っていません。ただ、家族が安心できるだけの十分な収入を得ながら、家族との時間もしっかり確保できる。妻との会話は増えましたし、子供の成長を身近に感じられる行政書士としての仕事には、毎日のようにやりがいを感じています。何も行政書士だけが独立して時間をコントロールできる仕事ではありませんが、やはり専門性の高い資格・仕事は強いですね。

<執筆:三河賢文>