資格の勉強には暗記がつきもの。しかし、「暗記が苦手でなかなか覚えられない」「短時間で効率よく暗記する方法を知りたい」と悩んでいる人は多いかもしれません。必死に覚えようとしても頭に入ってこなかったり、時間が経つとすぐに忘れてしまったりすることは誰にでもあります。「自分は記憶力がよくない」と思いがちですが、実は暗記のコツをつかめば記憶力は強化することが可能。記憶力が優れているように見える人の大半は、暗記のコツを知っていて上手に活用しているものです。

ここでは、限られた時間の中で効率よく記憶するためのコツをご紹介します。資格取得に向けて勉強中、あるいは、これから勉強に取りかかろうと考えている方は、ぜひ暗記に役立ててください。

右脳・左脳の役割と暗記のメカニズム

暗記のコツを考えるとき、しばしば話題に挙がるのが右脳と左脳の役割です。一般的に左脳が主に言語や計算を司るのに対して、右脳は主に映像や音声を司ると考えられています。そこで、暗記すべき事項を語呂合わせなどの覚えやすい音声に変換することにより、文字情報を音声情報とセットで記憶するというノウハウを実践したことがある人もいるでしょう。語呂合わせは便利な暗記方法のように思えますが、大きな問題点もあることを理解しておくことが大切です。

日本人の多くは、情報処理が左脳に偏りやすい傾向があるといわれています。西欧人は言語音と計算を主に左脳で処理するのに対して、日本人は感情音や動物・虫などの鳴き声といった情報も言語音や計算と同様に左脳で処理しているのです。日本人にとって風流な虫の鳴き声が、西欧人にとっては雑音に過ぎないと感じられてしまう。これは、左脳と右脳の役割の違いによると考えられます。もし暗記事項をうまく語呂合わせに変換できたとしても、頭の中で再現される音声は言語と同じ左脳で処理される可能性が高いことになるでしょう。語呂合わせに頼った暗記は、想像以上に左脳を酷使しているのです。

そこで、語呂合わせ以外にもできるだけ多くの暗記方法を知り、覚えるべき事項に合わせて使い分けられるようにしておきましょう。右脳と左脳をバランスよく駆使した暗記のコツをつかみ、臨機応変に活用できるようにしてください。

短時間で効率よく暗記する5つのコツ

1)図式化してイメージで暗記

図式化された情報は、文字情報と比べて多くの情報を含んでいます。言葉で説明するより写真を見せたほうが情報を素早く正確に伝えられることがあるように、図や画像には必要な情報が凝縮されているのです。

そこで、言葉で説明されている概念を図式化し、イメージで暗記しましょう。参考書や問題集では、要点を図やイラストで解説している場合があります。要点を示した図が頭に浮かぶようになれば、イメージから概要を思い出しやすくなるはずです。

<例>

◎基本情報処理技術者試験で出題されるクイックソートのうち「マージソート」の覚え方

・言葉で覚える場合

「配列を再帰的に分割し、再び併合することで並べ替えるソートアルゴリズム」

・図式化して覚える場合

言葉で覚えるよりも図式化したほうが、マージソートの概念と効果が視覚情報として確認しやすくなっています。頭の中に図式化された情報を思い浮かべることができれば、問題を解くための手がかりとなるケースもあるはずです。また、学んだことを自分で図式化してみることで、概念をどれだけ理解しているか確認する効果も期待できるでしょう。

2)単純化して圧縮した情報を暗記

効率よく暗記するためのコツとして、覚えるべきことをできる限り減らすという考え方があります。覚えなくてはならない情報量が少なければ少ないほど、短時間で無理なく覚えられるからです。

複雑な情報はできるだけ単純化してまとめておくと、覚えるべき事項を最小限に留めることができます。複数の情報をまとめることができれば、必要な暗記事項を1つだけに絞ることも可能です。とくに計算式のように言葉で覚えると煩雑になりやすいものは、情報を圧縮して暗記事項を減らせるように工夫するといいでしょう。

<例>

◎FP技能検定で出題される「PER」「PBR」「ROE」を計算する方法の覚え方

・言葉(数式)で覚える場合

PER=PBR÷ROE

PBR=ROE×PER

ROE=PBR÷PER

・単純化して覚える場合

3つの数式を丸暗記しようとすると混乱しそうですが、単純化してまとめてしまえば1つの図を覚えるだけで済みます。覚えるべきことはPER・PBR・ROEの位置関係だけですので、ほとんど負担を感じることなく暗記できるはずです。短時間で暗記が完了すれば、より時間をかけておきたい計算の練習に注力することも可能になるでしょう。

3)リスト化して個数を暗記

資格の勉強をしていると、似たような用語を複数覚えなくてはならない場合があります。用語の違いを区別して覚えようとしても、いざ試験当日に思い出そうとすると記憶が混乱しやすいもの。その結果、思わぬミスにつながることもあるため注意が必要です。

そこで暗記すべき用語をリスト化し、必要な用語の個数を頭に入れてしまいましょう。個数を覚えておくことで、重要な用語がいくつあったのか漏れなく思い出すことができます。また、リスト内の用語の頭文字を覚えておけば、用語全体を思い出すための手がかりにもなるはずです。1つの用語にいくつかの用語が関連している場合は、とくに有効な暗記方法といえます。

<例>

社会保険労務士試験で出題される失業給付の種類の覚え方

・文章で覚える場合

「失業等給付には求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付がある」

・リスト化して覚える場合

上のようにリスト化すると、失業給付には全部で4種類あることが視覚的に分かりやすくなります。それぞれの用語の頭文字を取って「失業給付は求・就・教・雇(きゅうしゅうきょうこ)」と覚えておけば、各用語を個別に思い出す際のヒントにもなるはず。リスト化によって関連する情報がグループ化されるため、まとめて記憶に残りやすくなる効果も期待できます。

4)関連づけしてストーリーとして暗記

私たちには、自分自身と関わりの深いことをよく覚えている傾向があります。自分に関することは重要な情報として記憶されやすいのに対して、自分と関わりが薄いことは重要度が低い情報として忘れてしまうからです。

カルフォルニア大学デービス校の研究では、情報はエピソードのように関連づけて記憶されており、ささいなことを思い出せば関連づけられた記憶も同時に強化されると論じられています。自分にとって身近な出来事や親しい人にまつわるエピソードと関連づけることで記憶がストーリー化され、簡単には忘れない記憶へと変えることができるのです。

<例>

◎TOEICに向けた勉強で「sensible」と「sensitive」を区別して覚える方法

・英単語と日本語訳をそのまま覚える場合

「sensible:賢明な・思慮のある」

「sensitive:感じやすい・傷つきやすい」

・関連づけしてストーリーとして覚える場合

「友人のAさんはいつも賢く思慮深いけれども、この前めずらしく電車に傘を忘れてしまい何日間も落ち込んでいた。ふだんのAさんはsensibleな人だけれども、ときどきsensitiveなところがある。」

sensibleとsensitiveはスペルや語感がよく似ているため、ばらばらに暗記すると混同してしまう恐れがあります。一方、Aさんという身近な友人のふだんの様子をsensible、電車に傘を忘れて落ち込んでいた様子をsensitiveと覚えておけば、Aさんの映像とともに英単語が記憶に残るでしょう。自分と関わりの深いAさんの性格や特徴と関連づけて覚えることで、2つの単語にどのような意味のちがいがあるのかストーリーとして記憶することができるのです。

5)相違点をピックアップして暗記

取得したい資格によっては、カタカナの用語やアルファベトの略語を大量に覚えなくてはならないことがあります。勉強した時期や覚えたタイミングが異なっていると、以前に覚えた内容と混在してしまうことも考えられるでしょう。そこで、似た用語や概念はまとめてしまい、相違点をピックアップして暗記するのがおすすめです。

相違点を強調して覚えておくことで用語の区別がつきやすくなるだけでなく、それぞれの用語の要点を押さえることにも役立ちます。「前に似た言葉を見かけた」と感じたら、ノートにまとめておくと復習するときにも活用できるでしょう。

<例>

◎ITパスポートで出題される用語を区別して覚える方法

・用語ごとに単独で暗記する場合

TOC(Theory of Constraints):制約理論

TQC(Total Quality Control):全社的品質管理

TCO(Total Cost of Ownership):総保有コスト

・用語の相違点をピックアップして暗記する場合

TOC=「Theory」of Constraints:制約「理論」

TQC=Total「Quality」Control:全社的「品質」管理

TCO=Total Cost of「Ownership」:総「保有」コスト

上の例では3つの用語のすべてに「T」と「C」が含まれており、別々に暗記すると区別がつきにくくなるのは明らかです。ところが相違点に着目すると、TOCの「T」だけはTheory(理論)を表しており、他の2つとは明らかにちがうことが強調されます。残るTQCとTCOの「T」はどちらもTotal(総計)を表しているため、「T」では区別がつかないことが一目瞭然です。そこで、3つの用語のうち唯一の「Q(Quality)」に着目して暗記したほうが合理的と判断できます。このように、相違点に着目することで各用語の要点を強調して覚えることにもつながるのです。

まとめ

資格の勉強に役立つ5つの覚え方について、暗記のコツや具体例を紹介してきました。視覚情報やストーリーを活用したり、覚える情報を絞ったりすることによって、丸暗記するよりも負担が軽くなることが実感できたのではないでしょうか。実践できそうなものから、さっそく資格取得に向けた勉強に取り入れてください。

暗記のコツを複数知っておくことによって、覚えるべき知識のタイプに応じて暗記方法を使い分けることができます。これまで「自分は記憶力がよくない」と感じていた人も、暗記のコツをつかめば以前ほど暗記が難しいと感じなくなることもあるはずです。さまざまな暗記方法を試すことによって、左脳と右脳をバランスよく使った暗記を実践していきましょう。

▼参考
日本人の脳機能のユニークさと文化
Neural reactivation in parietal cortex enhances memory for episodically linked information

[筆者プロフィール]
Ash.
キャリア・ビジネス・教育関連の記事を年間200本以上執筆するフリーランスWebライター。3児の父。