近年、世界を変える技術として注目されている「AI(人工知能)」AI研究は1950年代からスタートしており、第一次・第二次ブームを経て、現在は第三次AIブームと呼ばれる現象が起きています。第三次AIブームではディープラーニングという画期的な方法の発見により、これまで実現できなかった成果が達成されているのです。そんな中、4割以上に及ぶ多くの労働が機械によって代替可能という試算が出されており、AI技術による社会への影響が本格化しているという見方が広がりました。実際、すでに多くの産業で大きな変化が起きています。 ここではAIによって今後起こると見られる社会の変化と、その中で個人として生き抜くためのキャリア戦略について解説します。AI時代を生き抜くための参考に、是非ご覧ください。
目次
AI(人工知能)とは
AIの定義については専門家でもさまざまな意見があり、一意に定まっていません。AIという言葉が世間で初めて登場したのは1956年のダートマス会議と言われており、そこから第一次、第二次ブームと何度か世界的に注目されました。しかし技術的な課題によってブームは下火になり、二度の冬の時代を迎えます。
では、なぜ今AIが注目され、第三次ブームとなったのでしょうか。それは、ディープラーニングという画期的な手法が実現されたため。ディープラーニング(深層学習)は機械学習の一種で、大量のデータからコンピュータが自ら特徴量を獲得していくことができる学習方法です。
ディープラーニングの登場以前、AIは自律的に判断することができませんでした。そのため、人間が手作業で機械に判断のロジックを与え、学習させる必要があったのです。この方法は人間の作業が入るため、一般的に膨大なコストがかかります。このような制約があったため、これまでAI技術は大規模な商用化には至りませんでした。
しかし、ディープラーニング技術によってコンピュータ自らが学習し、自律的に判断することができるようになりました。そのため、画像認識や音声認識、自然言語処理や最適化といった分野において、革新的な発展を遂げることになります。例えば2016年、囲碁の世界においてディープマインド社が開発した「アルファ碁」が、当時の世界最強だったプロ棋士に勝利するニュースが話題に。世間で再び、AI技術が注目されるようになったのです。
現状AI技術ができること
AI技術が活用されているタスクは、大きく以下4つに分類されます。
1.識別系(見て判断する):監視業務、欠品判別、医療画像からの診断など
2.予測系(考えて予測する):異常値検知、需要予測、顧客行動予測など
3.会話系(会話する):チャットボット、電話の自動応答、翻訳など
4.実行系(物体を動かす):自動運転、ドローン制御、機械制御など
※参考:「文系AI人材になる」(野口竜司著・東洋経済出版)
これらのタスクではすでにAI技術が活用されており、日々精度の向上や適用範囲の拡大が行われています。ここで、具体的な例を挙げてご説明しましょう。
お客様の問い合わせを受けるコールセンターの仕事は、もっともAI技術が活用されている業界の一つです。チャットボットやボイスボットと呼ばれるものが、あらかじめ用意されたシナリオに沿って人間の代わりに回答します。簡単な問い合わせや定型化された会話では、AIが問い合わせ対応するセンターが増えてきました。
しかし、まだ高度で複雑な問い合わせの対応や、人間の感情に沿った対応はできません。このような場合は現状だと人間のオペレーターが対応していますが、裏側ではAIが回答をレコメンドしたり、感情分析によってお客様の感情をリアルタイムで分析したりしてオペレーターの業務を補助しています。
このように現状活用されているAI技術には、人間を代替するもの、そして人間の業務を助けて生産性を拡張するものなどがあります。
AIが労働市場に与える影響についての2つの主張
すでに実社会において活用されているAI技術は、労働市場にも大きな変化を起こすと言われています。AIが労働市場に与える影響について主張されるのは、次の2つです。
- AIでなくなる仕事もあるが、AIが新たに生み出す仕事もある
- AIが与える影響はこれまでの技術進歩とは比類がなく、大部分の仕事がなくなる
前者を主張する人たちは、これまでの産業革命でも起きたことが繰り返されると言います。例えばATMの登場で、銀行員窓口の仕事は代替されました。しかし、代わりにATMをメンテナンスする仕事が現れたように、失われる仕事と新たに生まれる仕事の需給は一致するというです。
一方で後者を主張する人たちは、AI技術はこれまでの技術と違い、人間の根本である知性の代替のため、大部分の仕事は機械に置き替わると言います。そうなった場合、人間の仕事は一部しか残らず、その仕事に就ける人、そうでない人との格差が広がるという立場です。
この2つの主張は世界中で意見が分かれており、見解は一致していません。ただしポイントは、どちらの主張であったとしても、なくなる仕事はあると指摘している点です。そのため、あらゆる分野において個人のキャリアプランに影響を与えることは想定されており、準備が必要と言えます。
AI時代に求められる人材とは
それでは、AI時代に生き残るためにどのような考えが必要なのでしょうか。ここでは、2つの視点から考察していきます。
<職種分類による4つの象限>
Google中国法人の社長を勤めた李開復氏は著作「AI世界秩序」(日本経済新聞出版)」で、AIによってどの仕事がなくなるかを考えるうえで、従来の低技能か高技能かという一次元的な基準では測れないと言います。そのうえで、以下2軸によって職種を分けることができ、どのグループに属しているかが重要であると主張しているのです。
- 縦軸:「社交的」か「非社交的」か
- 横軸:「創造性または戦略重視」か「最適化重視」か
これら2軸によって、さらに4つの象限に分けられます。
1.「社交的」×「創造性または戦略重視」(例:精神科医、経営者、コンシェルジュ など)
安全域:もっとも代替されにくい
2.「社交的」×「最適化重視」(例:教師、医師、ツアーガイド など)
うわべは人間:裏側の判断などはAIが行うが、顧客接点は人間が行う
3.「非社交的」×「創造性または戦略重視」(例:科学者、芸術家、アナリスト など)
ゆるやかな代替:現状のAI技術では難しいが、技術の発展に伴い代替が行われていく
4.「非社交的」×「最適化重視」(例:テレマーケター、保険査定員、与信管理係 など)
危険域:今後、数年でAIに代替される可能性が高い
まずは自身の職種が、上記のどの象限に入るか真剣に考えることが必要です。自身の職種が安全域なのであれば、引き続きその分野でキャリアを作れば良いでしょう。逆に危険域なのであれば、すぐにでもキャリアを転換すべきかもしれません。
また、「うわべは人間」や「ゆるやかな代替」の領域も、すぐにはAIで代替されないものの、AI技術の発展や社会がAIを許容するなどの社会構造の変化によっては対応が求められます。変化を見極めて、柔軟にキャリアを変えていく必要があるでしょう。
※参考:AI世界秩序米中が支配する「雇用なき未来」(李開復・著/上野元美・訳、日本経済詩文出版)
<2つのキャリア戦略>
AI時代におけるキャリアの基本戦略は大きく以下2つに分けられ、いずれかの道を選ぶ必要があります。
- AIを作る人になる
- AIで代替されにくい人になる
「AIを作る人」の代表的な職種は、機械学習エンジニアやデータサイエンティストです。どちらもAI技術の発展に伴い需要が増加していますが、供給が追いついていません。巨大ITテックを中心に、高給で採用されるケースが増加しています。
また、最近ではAI技術のコアな部分はアマゾンやGoogleなどが開発したものを利用。そのうえで、実際のITサービスに落とし込めるエンジニアなどが求められるケースが少なくありません。特にチャンスがあるのは、エンジニアとしてそれなりに経験のあるミドル層です。ある程度、機械学習の知識を身につけて、あとは実行しながらキャッチアップしていけば、機械学習エンジニアへの道が開けます。
「AIで代替されにくい人」の代表的な職種は、社交性を求められる接客業や戦略的な判断が求められる経営者です。まず、接客業のように社交性が求められる仕事は、AIによって代替が起きづらいと言われています。ここでいう接客業は広い意味で人と接する仕事全般を指すので、医者や教師などもこれに含まれます。すでに医療の現場では、AIが高度な判断をするなど一部の業務代替が起きているでしょう。しかし患者のケアなどは、まだ人間にしかできない仕事です。
また、経営者など高度で複雑な判断が求められる、あるいは過去にデータのないものを判断する仕事は、AIによる代替が難しいでしょう。情報のインプットやアウトプットが定量化されていないものは、現状のAI技術では処理できないためです。経営者に限らず、戦略的な判断や創造性などが求められる職種でキャリアを磨いていくことが重要となります。
まとめ
AIの始まりやできること、労働市場に与える影響、そして考えるべきキャリアプランについて解説しました。その中で代表的な職種をいくつか挙げていますが、重要なのはそこに共通する特徴を発見し、「どういうキャリアを磨けばAI時代でも活躍できるのか」を判断することです。そのため大切なのは、AIに限らず最新技術にできること、できないことを正しく知ること。その動向をしっかりと追い、自ら学習していく姿勢が求められます。