資格試験に暗記は不可欠。しかし中には、「暗記することがあり過ぎて覚えられない」と嘆く人も多いでしょう。実は私も司法試験時代、この暗記が苦手でした。司法試験に3年で合格した男性に相談したところ、「友人の名前は覚えられるよね。記憶力はあるから大丈夫」と言われてポカンとした思い出があります。ここでは暗記が苦手な人に向けて、記憶のメカニズムやおすすめの勉強法を解説します。

脳が分かれば記憶も良くなる?記憶に関する3つの疑問

一度見ただけですぐ覚えられ、いつまで経っても忘れない。そんな人になれたら、どんな試験でも楽勝で合格できるかもしれません。過去、私は「頭が良い人=記憶力のある人」と考え、高校時代に親へ睡眠学習の機材が欲しいとせがんだことがあります。まずはこの記憶について、よく抱かれがちな3つの疑問にお答えしましょう。

1)なぜ忘れるの?

人間の脳は「生命維持」に関する記憶を優先しています。そのため、不要な記憶は忘れるようになっているのです。法律関係の資格試験では、記憶しなければならない情報が膨大に存在します。これらをすべて覚えようと頑張っても、生命の脅威となるわけではないので、覚えられない部分が出るのも無理はありません。

2)記憶力は人によって違うの?

少し前まで、記憶の容量は生まれたときから決まっていると考えられてきました。しかし脳科学が発展し、現在は記憶の容量に個人差はないと言われています。記憶力の良い人と悪い人の差は、脳の使い方の差であることが解明されました。

3)海馬(かいば)って何?

脳内には海馬という部位があり、新しい記憶は海馬に、古いものが収納されるのは大脳皮質です。海馬は新しい情報を一時的に保管し、重要でないと判断した場合は忘れようとします。ここで重要性の判断基準は、「生命維持」に関わりがあるかどうかです。

覚えた人の名前は、一度しか会わないとすぐ忘れてしまうもの。しかし、何度も会っていれば自然と覚えてしまいます。海馬に繰り返し情報が入ってくると、海馬が「生命維持に必要な情報に違いない」と錯覚し、大脳皮質へと移管して記憶として定着するのです。

物事が覚えられない人は、繰り返す回数が足りないのかもしれません。資格試験の勉強に復習が必要なのは、繰り返し入力して海馬に必要な情報だと錯覚させ、長期記憶として定着させることです。

暗記が苦手な人の9つの勉強法

ここで、暗記のためにおすすめの勉強法を9つご紹介します。現在の勉強法と照らし合わせながら、取り組んでいないものは実践してみてください。

1)書きまくって覚える

テキストを何度も書くことで手の刺激が脳に伝わり、覚えられるようになります。コピー用紙やチラシの裏を利用して、繰り返し書いてみてください。書いて覚えた内容は、、書かずに覚えた内容より記憶として残りやすいという研究もあります。すべて覚えようとするのでなく、慣れてきたら太字の用語やマーカーを引いた箇所だけ何度も書いてみるのもいいでしょう。

ただし、書く作業は意外と時間がかかるので、勉強時間やスケジュールのコントロールに注意が必要です。確実に記憶として定着したい人は、計画的に勉強スケジュールを立てて書きまくってください。

2)樹形図を作って覚える

メモリーツリー(樹形図)はご存じでしょうか。人気漫画「ドラゴン桜」に登場し、一気に広まった勉強法です。記憶したいキーワードを中央に置き、そこから木が枝を伸ばすように重要事項から細かいキーワードを広げていきます。このとき、ユニークなイラストをたくさん描くことで定着率がアップ。メモリーツリーを作ると頭の中が整理整頓でき、それぞれの内容を単独で覚える必要がないので忘れにくくなります。

自分でメモリーツリーを作るのがもっとも効果的です。ただし、他人が作ったメモリーツリーを見て覚えても効果があります。勉強仲間がいる人は試してみてください。

3)声で覚える

書いて覚える時間がない人は、声で覚えましょう。黙読より声に出して読む「音読」の方が効果的なことは、科学的に立証されています。ここで気を付けたいのは、テキストを一字一句間違えずに読むこと。言葉を勝手に作り替えて読んだり、文字を飛ばして読んだり、スラスラ読めない場合は内容がほとんど分かっていないことになります。

最初は苦痛かもしれませんが、しっかり声に出して読んでみましょう。人に話しかけるつもりで音読すると、記憶の質が変わってきます。

4)感情で覚える

例えば歴史を覚えるとき、「すごい!」「ずるいな」「可愛そうだな」など感情や感想を口に出しながら読むと、覚えやすくなります。これは興味のあるものに触れると、海馬が刺激されて暗記がしやすくなることの進化系。感情を口に出すことで海馬が「生命の維持に必要」と錯覚し、長期記憶に移行してくれるようです。

5)五感を使って覚える

長期間しっかり覚えるには、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚を働かせながら暗記することが大切です。働かせる感覚器官が多ければ多いほど、記憶に残りやすいとされています。

書いて覚えるだけでなく、声を出しながら書いてみましょう。自分の声を自分の耳で聞き、目と手を動かすことは、聴覚・触覚・視覚をフル活用させている状態です。さらに、勉強する空間を良い香りで満たすことで、嗅覚も活かすことになります。

6)ものに頼って覚える

暗記が苦手な人は、ものに頼りましょう。例えば習慣化アプリ「みんチャレ」には資格試験の部屋があり、共通の目標を持った仲間がチームを組んで目標達成を目指しします。また、TOEICなど英単語の暗記が必要な人には、英単語暗記アプリ「Monoxer(モノグサ)」がおすすめ。暗記したい単語を入力すると、AIが問題を自動作成してくれます。こうした新しい仕組みを、勉強へ上手に活用しましょう。

7)香りで覚える

香りには記憶を呼び覚ます効果があります。人間の五感の中で、嗅覚だけが海馬にダイレクトに信号を送ることができるようです。資格試験の勉強でも、香りの力を利用しない手はありません。

集中力を高める香りにはローズマリーやイランイラン、ペパーミントなどがあり、精神をリラックスする香りはラベンダーやベルガモットなどが代表的です。

8)目を閉じて覚える

五感をフル活用して暗記した後は、5∼10分間ほど目を閉じてボーっとしてみましょう。目を瞑っている間は、何も考えなくて構いません。呼吸に意識を向けて瞑想しても、暗記したばかりの内容を復習していても自由です。

視覚からの情報は80%といわれていますが、目を閉じて休めば新しい情報が入らないようになります。すると脳に余裕が生まれ、これまで入った情報を固めようとするのです。1時間暗記した後は、必ず5分間だけ目を閉じる。こうした具合に予定に組み入れておくといいでしょう。

9)人に教えて覚える

もっともも記憶が定着する勉強法は、その内容を誰かに教えることです。自分の頭の中にある内容を整理し、相手にも理解しやすい形にして伝えることで記憶の定着率が高まります。

分かりやすく伝えようとすると、自分の記憶があやふやだったところがより理解できるようになります。相手が見つからない場合は、愛猫や愛犬を相手にしても構いません。私の教え子はぬいぐるみに向かって、担任の真似をしながら身振り手振りで教えていました。

まとめ

暗記は繰り返し繰り返し行う、地味で根気のいる作業です。ここでご紹介した9つの勉強法は、楽しく効率的に覚えるためのテクニックです。暗記を制する者は資格試験を制する、と言っても過言ではありません。暗記が苦手な人は、ぜひ参考に取り組んでみてください。自分に合ったものから始めて、合格を勝ち取りましょう。

[筆者プロフィール]
深井 紀美子(ふかい きみこ)
石川・富山両県の地方紙で新聞記者を約10年続けた後、金沢大学へ編入学。司法試験に失敗した後、日商簿記1級、日商ECマスター、建設業経理事務士1級、初級シスアド、秘書検定2級、英検2級、エクセル、ワードなど17の資格を取得。現在はフリーライター、プロ家庭教師、NPO法人統合医療と未来を考える会理事長。