はじめに

さて、「行政書士は食えない?」に続いて、「学ぶ科目が使い物にならないのか?」という行政書士ネガティブシリーズ。
「行政書士で学ぶ科目が使い物にならない!」という批判を検討してみます。
なお、行政書士の主な試験科目は下記の通り。
憲法、民法、行政法、商法・会社法、一般常識etc。

使えないのは行政書士だけか?

そもそも、行政書士試験だけ、そんなに使えない科目が羅列されているのでしょうか?
結論として、それは違います。
よく言われるのが、「合格したところで、車庫証明一通書けないじゃないか!」というものですが、それは、そもそも試験に対する批判としては的外れです。
試験概要をよくご覧ください。
「行政書士の業務に必要な知識・能力について」とあります。
年々変わる法制度や社会環境に対応する基礎的素養(行政書士試験委員が妥当と見るレベルで、ですよ)を身に着けているのかどうかを見るのが試験の目的のひとつとは言えないでしょうか?
ですから、この時点で運用されている実務での書類が書けるかどうかだけを試しているようでは、それはそれで逆に心配です。
現在、行政書士の世界では特定行政書士制度など、新しい業務が誕生しています。
新規参入する方の中には、新しい業務を開拓しているかたもいらっしゃいます。
また、司法制度や国の仕組みがどんどん変わっていけば、「今書いている書類の書き方が、明日には全然変わっている」ということもないわけではありません。
その時、役に立つのは既存の書類の書き方でしょうか?あるいは、法律の変化を読み取る能力でしょうか?どちらかと言われれば答えはおのずと明らかなような気がします。

じゃあ、実際、実務とは関係ないのか?

そんなことはありません。
では、主な科目と学ぶ意義、実務との連動性について検証します。
例えば、民法。事実、法的に争いのない民事法務などを手掛ける先生もいらっしゃいます。
もちろん、試験で出題されるレベルの民法では太刀打ちできないでしょう。
しかし、「試験の時に学んだ民法が使えないか?」というと、そんなことはないはずです。
憲法。やはり、国の制度の根幹を担う法律。
憲法の理解無くして法律の理解は無いのではないでしょうか?
ちなみに、司法試験、司法書士試験でも憲法は試験科目として出題されています。法律を生業とする以上、憲法の学習を「使えない!」と言ってしまうのもどうかと考えます。
行政法。ちなみに、司法試験においても試験科目です。
行政書士は役所とのパイプとなる存在です。
実際に様々な事務所のホームページの中核業務や、いわゆるスクールのアナウンスによる「こんな書類が書けるようになります」的な内容を見てみましょう。
すると、やはり、人々と行政を結びつけるものが大半となっています。
そういう意味で、行政の仕組みを含む行政法の学習は決して無意味ではないでしょう。
また、行政法は、書類作成の土台となる考え方が手に入ります。
例えば、「許可」という言葉の意味を一つ取ってみます。営業許可申請。農地の権利移転の許可。あるいは帰化申請手続きの許可。
どれも行政書士が担当できる許可申請業務です。
おなじ「許可」という言葉を使っていますが、行政法上、上記3つは異なるものです。
自分の扱う商品の違いを学ぶ。その学習に対しては、決して「使えない」という批判はあたらないのではないでしょうか。

まとめ

もちろん、試験勉強と同じ知識が現場で問われることはまれです。
しかし、行政書士の先生方にしてみれば、試験の知識を理解しておくことは「大前提」です。
その上で、さらに深いところを専門書で学び、さらに現場でなければわかりえない経験を加えてブラッシュアップしています。
言い換えれば、「試験勉強が役に立たない」というのは「まったく使い道がない」という意味ではなく、「それだけでは仕事にならない」という意味で理解する方がよいでしょう。
しかし、実はそれはどの資格試験も基本的には同じです。
司法試験合格者に対しては「司法試験に合格しても、訴状ひとつ書けないじゃないか!」という批判がなされることもあります。
しかし、司法試験合格者、すなわち、今の弁護士や検事が司法試験の学習過程で訴状を書く試験がなかったからと言って、現在の司法界に支障をきたしているという話はあまり聞きませんよね。
残念ながら、資格試験のみならず、どんな試験にも批判や欠陥は必ず存在します。
それを承知の上で、なお、その学習内容に興味を持てたのであれば、「取得後の知識の活用方法を検討するほうが前向きで楽しい」。そう考えるのは私だけでしょうか?
結論:
その1「すぐに役立たないけど、それはどの試験も同じ。将来の仕事の土台となる可能性は十分に考えられる」
その2:「将来のブラッシュアップのために必要な基礎はたくさん詰まっている」

(参考)

一般財団法人行政書士試験研究センター

https://gyosei-shiken.or.jp/doc/abstract/abstract.html