はじめに

筆者は留学生に向けて簿記の講義をした経験があります。
国籍としては中国、韓国、ベトナム、ウズベキスタン、ネパール、スリランカ、ミャンマーetc。
すると、留学生や外国籍の方でも取得は非常にしやすいことに気づきました。
しかし、学びやすいとはいえ、日本語を母国語としない方ならではの注意点がいくつかありますので、その対策をお伝えします。
また、日本語を母語とする方にとっては、効率よく知識を吸収するためのヒントとなっています。

簿記学習の障壁その1=漢字。とその対策

まず、留学生が苦労するポイントは漢字です。どうしても仕訳の問題では勘定科目を記入する必要があり、そこで苦労する方が多いようにお見受けします。
したがって、漢字圏の方、中国や台湾の方ですと、かなりスムーズに内容を習得されます。
漢字圏外の方の対処方法としては、仕訳に使用する漢字だけ徹底的に練習するなどの工夫が必要です。
とは言え、試験会場で書けなければならない漢字は決まった勘定科目だけです(どのテキストを開いても「使用する勘定科目一覧」があります)。
また、当日は例えば、簿記3級の問1の場合、問題用紙に書いてあるものを書き写せばいいだけですから、間違えずにスピーディーに書き写せるようになれば問題ありません。

障壁その2=文章の読み取り。とその対策

日本語の文章読み取りに苦労されています。
外国人の就職については日本語能力を重視する企業がまだ多く、大変な思いをされている方もおられるでしょう。
簿記のシステムは非常にシンプルで、誰でも理解できるように作ってあります。ですから、システムの理解に苦労される方はたとえ日本語を母国語としない方であっても筆者の経験からは、あまりいません。
システムを理解する為に必要となる難解な日本語の読み取りに苦労される方が圧倒的です。
例えば、「減価償却」のような専門用語は日常では出てくるものではないですし、見ただけでイメージが湧くものではありません。
さらに、指示事項の読み取りも、これまた日本人でも初学者は苦労するような文章。「かねてより受け取っていた」とか「品違いのため返品、掛け代金と相殺」とか、日常会話では出てこない表現がたくさん。
では、どう対処したらよいのでしょうか?
実はある特定の会計処理をしてもらうために使う日本語は決まっています。
言い換えれば、「一つの処理について様々な日本語を覚える必要はない」ということ。
なぜこういうことが起きるのかというと、作問上「この指示をするにはこの日本語表現」という暗黙のルールがあります。
これは簿記検定にかぎった事ではありません。
変わった表現で指示を出して、受験生の誤解が生じ、試験会場でトラブルが起こることを避けるためでしょう。
筆者も作問をするうえで気を使うのは、「誤解が生じないか」「ひとつの手順だけを指示で来ているか」「解答はひとつか」ということですが、その結果として、特定の日本語だけを使用することになります。
したがいまして、日本語を母国語としない方は、無制限に色々な日本語が出てくるからと恐れることは決してなく、「この日本語=この仕訳」くらいの割り切った学習をすることで、ストレスがかなり軽減されることでしょう。

障壁その3=書き取りスピード。とその対策

日本語を書く作業を最小限にする
この内容はきちんとした指導を受ければできるようになるのですが、特に日本語を母国語としない方は意識してください。
メモ書きや、計算過程で勘定科目を書くことがありますが、正確な漢字でメモを取ろうとすると、明らかにハンデとなります。
具体的には、計算用紙のメモ書きは勘定科目については正確には書かない(スクールでも指導されます)。それでもまだ、時間が足りなくなるようでしたら、母国語でメモしていただいてもいいと思います。
再三にわたって申し上げていますが、学習者の多くが「簿記の仕組みがわからない」ではなく、「日本語がわからないため難しい」というケースが多いのですから。
とは言え、その他の資格に比べれば、日本語の量は比較的少なくて済むのは間違いありません。例えば、法律関係の資格を検討する場合、その日本語の量は、さらに膨大になります。
また、法律の内容は国の政治制度の影響を受け、母国の内容とは大きく違うことがあります。特に、日本の税法や、社会保険関連の法律などは複雑で、理解をするのは非常に大きな困難をともないます。
そういうことをふまえると、日本国内のメジャーな資格試験の中でも、簿記はかなりまなびやすいものだとは言えないでしょうか?