活躍する中小企業診断士インタビュー vol.03(スペシャルインタビュー)

「社長はデータをこう活かせ!」著者
平井明夫さん
先日出版された『「埋もれた数字」が利益を伸ばす 社長はデータをこう活かせ! 』の主要な著者である平井明夫さん。書籍の内容から診断士の可能性、独立を意識した仕事の仕方など、多岐にわたってお話を伺いました。 (インタビュアー:KIYOラーニング代表 綾部貴淑)



平井 明夫 Hirai Akio

約30年のサラリーマン生活を経て、50歳を過ぎて独立開業。現在は、フリーランスの事業企画コンサルタントとしてIT企業の新規事業立上げを支援するかたわら、データ分析を中心としたテーマでの講演・執筆活動を行っている。

●主な著書
『データ分析できない社員はいらない』
『社長はデータをこう活かせ!』

書籍『社長はデータをこう活かせ!』について


――弊社も共著者として協力した書籍『社長はデータをこう活かせ!』が出版されましたが、平井さんにとっては、何冊目の書籍となったんですか?

平井:ちょうど10冊目ですね。データ分析に関する技術書が中心ですが、2004年が最初の書籍で、それ以降平均すると毎年1冊くらいのペースで出版しています。

社長はデータをこう活かせ!
 

「中小企業の経営者がデータを活用してうまく会社を経営する方法」を解説。中小企業診断士として第一線で活躍するコンサルタントが中心となり、難しい分析理論や会計用語は一切使わず、カンタンに理解できて、すぐにデータを活用できる実践書。



――記念すべき10冊目の今回の書籍はどのような内容なのでしょうか?



平井:まずカテゴリとしては、いままで多くだしている技術書ではなく、完全なるビジネス書です。今回は、出版元である日本実業出版社さんから、中小企業の社長さん向けに、今流行りのデータ分析に関する内容の書籍を出したいとお声がけをいただきました。



 中心となるのは、「管理会計」に関連する実践的なデータの活用に関する内容です。ただし、「管理会計」という言葉をそのまま使ってしまうと中小企業の社長さんには敬遠されてしまうと考えました。ですから会計用語をなるべく使わずに理解してもらえるように、伝え方などをかなり工夫しています。



――専門用語や難しい用語を使わないということ以外で工夫された点などはありますか?



平井:今回の書籍では、「社長さんが経営をしていて、こう失敗しますよね?」、あるいは、「こういうところがわからなくて悩みますよね?」というところから始まって、データ分析を使ってその問題を解決する、というストーリーとしたことですね。



――社長さんのお悩みを解決するというストーリーですね。



平井:そうです。お悩み解決ですね。そういうストーリーにしていかないと、中小企業の社長さん向けの書籍は売れていかないんです。


中小企業向けのコンサルツールとしてのデータ活用

――社長さんのお悩み解決=コンサルティングということにもなると思いますが、診断士の方々や現在試験勉強中の方々にとっても活かせる内容でしょうか?



平井:今回の書籍の内容は、診断士の方が行うコンサルテーマとして非常に適していると考えています。例えば通常、会計・経理・財務などは、中小企業診断士ではなくて、公認会計士や税理士の方が主に担当する分野です。ですから、そうでない分野、経営管理とか、難しい言葉でいうと管理会計とかそういったところは、中小企業診断士の方がカバーするのに適しているのではないかと考えています。
 おそらく中小企業診断士試験に合格された方は、今回の書籍の内容などは理解はされてると思います。ただ、その内容を説明して社長さんに実践していただく、あるいは実際のデータを使って、分析をしてみせるということができるかというと、なかなか難しいと思うんです。
 ですので、社長さんにはもちろんのこと、コンサルを行う側の方々にも、こういう風にデータを活用すればこういったことができるよ、ということを伝えられるようなイメージで執筆しています。



――書籍の内容が、コンサルツールとしても使えるというイメージでしょうか?



平井:そうですね。今回の書籍は、今までの管理会計の書籍などと比べて遥かにやさしく・わかりやすく書いているという特徴があります。非常にわかりやすく、ステップバイステップでデータ活用ができるように書いたつもりですが、実際に社長さんがご自身でデータを活用するというのは、なかなかハードルが高いなとも思っています。



 ですから、中小企業診断士のような方が、ITリテラシーなどが必要なデータを分析する工程を手伝ってあげるとか、少なくとも最初は実際にやって見せてあげるというようなことお手伝いしてあげないと実際に運用に乗らない可能性もあり、そこにコンサルタントとしてのチャンスがあるのではないかと思います。
 具体的にはコンサルとして今回の書籍の内容を基に商売するとしたら最初は一通り全部やってあげて、Excelの得意な方にやり方を教えて、実際に運用してもらい、適宜支援・指導するというのが現実的イメージですね。



――データ活用は社長が自ら手を動かすというのは現実的ではなくて、社員の方が最初から一人でやるというのもなかなか難しい。そうすると外部の第三者が必要になる。その第三者として平井さんが有望だと思っているのが、中小企業診断士ということですね。



平井:そういうことです。


中小企業診断士の可能性

――他にも士業の資格などもたくさんありますが、なぜ診断士が適していると思われたのでしょうか?

平井:まず、最初に思いつきそうな会計士・税理士系の人は、基本的にコンサルではないんですね。お客さんのリテラシーにあわせて、何か付加価値を出すというようなサービスは提供していない。最近は、あの業界も厳しいので、+αのサービスをしようとしている方々や企業もあります。ただ社長さんのレベルに合わせて、わかりやすく説明するというのはあまり得意ではない方が多く、経験も少ないのではないかと思います。なので、今回の書籍の内容は税理士や会計士の方々は理解はもちろんできますが、社長さんに対してうまく説明できない可能性が高いのではないかと考えています。

――会計士・税理士が外れたところで、診断士が出てくるということになると思うんですけど、平井さんは診断士やそのお仕事については、以前からご存知だったんですか?

平井:初めて生の診断士の方とお会いしたのは、3年前くらいです。

――生の診断士の方に会ってみていかがでしたか?

平井:KIYOラーニングさんを通して知り合った、酒井さん、渋屋さんなど、実際に活躍されている方は、自分で会社を作ってもおかしくないと思えるような人たちで、こういう人が診断士の中で増えてきたら面白くなるのではないかと思いました。
 今は、こういう人たちが今後増えていくんじゃないかなという漠然とした期待感をもっています。

――「こういう人」というのは、資格の制度の枠にはまらずに、自分でビジネスを立ち上げていけるような人というイメージですか?

平井:そうですね。診断士の資格はあくまで箔づけか、コンサルティングの一通りの知識を得るための手段としての認識を持っているような人のことです。そういう人が増えてくると面白いかなと思います。
 診断士の会に登壇しているような活躍している診断士の方は、「資格さえとればどうにかなる」というような考え方を否定していますし、それがトレンドで、5年、10年すれば大きく変わっていくんじゃないかという予感を持っています。

――そういう志向を持った方は、若い方とシニアの方であればどちらに多いとお考えですか?

平井:思考・発想からすると若い人の方が柔軟だと思います。それに対して、ご年配の方は、特にそれなりの経験と年齢を経てから診断士の資格を取ろうとする人は、すごくまじめな人が多いじゃないかと思います。
 そういう人は実績もあるし、能力もあるのですが、あまりにも既成概念にとらわれてるというか、サラリーマン的な価値観に凝り固まってしまっている人が多いのではないかと思います。これは診断士を取ったり、目指している人に限った話ではないですが。

フリーランスと起業、サラリーマンであることのリスク


――平井さんご自身は、書籍を出したり、コンサルとして活動したり、独立して活躍されています。やってはみたいけど、サラリーマン的価値観があるから独立できないという方も多くいらっしゃると思いますが、独立までに至らないのは、何が原因だと思いますか?

平井:サラリーマンの方からすると、本当の意味でのフリーランスのイメージがつかないみたいなんですね。例えば、実際にフリーランスとして働いている人でも、サラリーマンとやっていることは全然変わらない人もいる。プログラマとしてフリーランスなんだけど、それは税制上のフリーランスであって、やっていることは客先常駐のお仕事で、会社に所属するのと変わらなかったりするわけです。
 自分の感覚からすると、それはフリーランスの意味がないと思うんですよね。自分の定義するフリーランスは、自分でお客さんから直接仕事を取って、なおかつ、一つのお客さんに固定されないということだと考えています。

――自分で仕事をとり、複数のお客さんを持つと。

平井:複数のお客さんに、自分のコアな知識とかスキルとかサービス、べつにサービスでなくてもいいんですけど、それを提供するのがフリーランスで、それが高じると会社を起こすことになる。もっと手広くやりたいんだけど、一人じゃ限界だからという人が、会社を作るというのが一つの流れです。

――フリーランスとサラリーマンの違いはどのようなものとお考えですか?

平井:フリーランスと他の働き方の一番の違いは、収入保証を一つの顧客とか、所属している会社などに頼らないということです。それは、今のこの瞬間のリスクの分散という意味合いもあるし、5年後10年後の時系列の意味でのリスクヘッジの意味合いもあります。そいうリスクヘッジを行う発想をしていかないと、いまサラリーマンをやっている方の多くの人があとで後悔することになると考えています。

――後悔するというと。

平井:日本の一般的な企業はピラミッド構造で、ピラミッドからあぶれた人を出向とか嘱託とかで養えていたのですが、だんだんそれが難しくなってきている。そのため、あぶれた人たちは排除されてしまっているんですね。それが広まり、徐々に社会問題化しつつあります。また、ピラミッドに残ったとしても、多くの人は結局給料が右肩上がりでなくなり、40歳前くらいで収入が頭打ちになる。

――下がることもありえますよね。

平井: サラリーマンは一見安定しているように見えるんですけど、ある意味オールオアナッシングの世界なので、ピラミッドからあぶれてダメになった瞬間に0になってしまいます。実は、リスクとしては最大のものを抱えていることになる。

――リスクが実際に発生したら、取り返しがつかないということですね。

平井:そうです。それに対して、フリーランスは、1000万円は難しいかもしれないけど、300万とか500万稼げる可能性は凄く高い。それも複数の顧客から稼ぐことができる。いきなり0になるリスクはかなり低いわけです。

――ただあまり独立を意識したことのない人からすると、フリーランスに自分が向いているかどうかわからないとか、自分に何ができるかわからないというような悩みを持つ方も多いと思いますが、その辺りはいかがですか?

平井:自分がフリーランスとして何ができるかというのはもちろん重要なんですけど、サラリーマンとして頑張るとしても、会社の看板を背負わないときに自分に何ができるかというのは、真面目に考えなければいけない。もし真面目に考えて何もできることがないんだったら、たぶん先がないですね、これからは。会社の名刺がなかったら、なんにも仕事ができないし、誰からもお金ももらえないんだったら、転職すらできない。
 そういった意味では、同じサラリーマンでも、ある程度転経験がある人の方が、フリーランスになる下準備ができていることになると思います。

――転職するにしても、フリーランスになるにしても、踏み出す第一歩としては何が必要でしょうか?

平井:まずは、例えば会社の名刺を取り上げられてしまったとして、お客さんに対して「私こんなことできますので、お金ください」と言える材料がどれだけあるかということです。私は「この会社にいたから」ではなく、「こんなことやってきたから」という形で自分を売り込めますかと。せめてね。最低そこから始めないとだめですね。

――それをなるべく早い段階で意識してやっていく必要があるということですね。

平井:そうですね。割合成功しやすいパターンは、まずどこかの段階で転職をすること。その転職が収入だけで選んだとかではなく、個人のスキルで仕事してるような社風・文化の会社を選ぶこと。そうするとまず、一般の大企業とは仕事の仕方が変わる。
 また、そういう社風の会社は、認められれば、辞めた後に、フリーランスとして仕事を継続することもできることが多いんです。そうすると、今までやっていた仕事の内容で、ビジネスとして稼げるわけです。
 そうすると、その間に新しい仕事を開拓していく、いわゆるソフトランディングのパターンを選べる可能性がでてきます。独立といっても、いきなりハイリスクということではなく、こういったソフトランディングのバリエーションはいくつかあると思います。

これからのお仕事について


――これからの平井さんのことをお聞きしたいんですけど、ご自身の活動や診断士の方と組んだビジネスなど、いま考えているものがあれば教えてください。

平井:私自身は中小企業向けの経営コンサルなどを仕事にするというのは、時間的にも難しいし、他にやりたいことがあるのでやらないですけど、すごく面白くて将来性のあるテーマだと思っています。ですので、協力者の集まり、例えばフリーランスやこれからフリーランスになる方たちで一種のコミュニティを作って、互いに勉強し合ったり、お客さんを共同で開拓して、色々な形で中小企業の経営を助けることをビジネスにできるようなモデルを作るというのが今の目標です。

――協力者を広げていきながら、中小企業の経営を助けるビジネスモデルを作っていくということですね。

平井:自分自身でトップになって会社を作ったり団体を作ったりとかはイメージはしていないんですね。ですから、すでに独立して仕事が出来ている人とか、機能しているコミュニティに私のスキルとかノウハウを使ってもらって、そこにこれから診断士になる人などもどんどん参加してもらって、それが自律的にうまく回るようになればいいかなと思っています。

――そのコミュニティの一つが「診断士の会」であるわけですね。

平井:そうですね。すでに実際に活動している診断士のコミュニティとして、KIYOラーニングさんには非常に期待しています。

――きれいにまとめていただいてありがとうございました。